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平成19年4月17日最高裁判決控訴審平成18年2月23日福岡高裁判決全文紹介2

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平成28年12月15日(木):初稿
○「平成19年4月17日最高裁判決控訴審平成18年2月23日福岡高裁判決全文紹介1」の続きです。
本判決は、「保険金を請求する者は、被保険自動車の盗難その他偶然な事故の発生を主張立証すべき責任を負担するものと解されるところ、被控訴人は本件車両持ち去りが第三者による盗難その他偶然な事故によるものであることを証明する」義務があると、厳しい判断をしています。

○しかし、この判断は、平成19年4月17日最高裁判決(判タ1242号104頁、判時1970号32頁)によって、「『被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと』という外形的な事実を主張・立証すれば足り、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張・立証すべき責任を負わない」として覆されました。


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6 そこで、以下、本件車両持ち去りが偶然に起きたものか否かについて判断する。
(1) まず、本件車両の持ち去りが容易か否かについて検討する。
 前記の事実から、本件車両の持ち去りの方法としては、〈1〉マスターキー又はサブキーを使用する方法、〈2〉合い鍵を作ったうえそれを用いて車内に入った後、車内に存在したマスターキーを使用する方法、〈3〉ドアをこじ開けたり壊したりして車内に入った後車内に存在したマスターキーを使用する方法、〈4〉あらかじめ、キーの記憶回路をコンピューターに再登録し、再登録されたキーを使用するか、又はECU(エンジン・コンピュータ・ユニット)そのものを取り替える方法(甲8、9)などが考えられる。

 上記のうち、〈3〉については、49秒程度の短時間で現場に痕跡を残さずに車内に侵入できるかが疑問であるのみならず、後述のとおり、そもそも車内にマスターキーが存在したものとは認め難いから、〈3〉の可能性は否定すべきである。〈2〉については、被控訴人の供述上何者かによって合い鍵が作られた形跡を窺わせるようなものは何ら存在せず、また、本件駐車場には本件車両以外にもこれと同等又はより上等の高級車が数台駐車していた(乙9の1、被控訴人本人[第2回])のに、本件車両について特に合い鍵まで用意して窃取したものと認定するには疑問が残る。〈4〉も論理的にはあり得るが、そもそも車内に入る方法が推測困難なうえ、この方法はその性質上到底49秒程度の時間で遂行することができるとは考えられず、本件においては可能性に乏しいものといわざるを得ない。

 そうすると、本件では〈1〉の本件車両のマスターキーかサブキーを所持した者がそれを使用して本件車両を発進させて持ち去った可能性が高い。
 そこで、誰かがあらかじめ本件車両のマスターキーかサブキーを盗み出していたかどうかであるが、本件では被控訴人が本件車両の鍵を盗まれたと届け出ていたような事実を認めるに足りる証拠はない。また、本件車両内にマスターキーが存在したとして、これを第三者が知っていたことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、誰かがあらかじめ本件車両のマスターキーかサブキーを盗み出していてそれを使用して本件車両を持ち去ったとは認められない。

 そうすると、全くの第三者が本件車両を窃取することは極めて困難であるといわざるを得ない。
 これに対し、甲15及び証人Dの証言中には、本件マンションの1階にある駐車場はオープンスペースが多く青空駐車場と同様に物色がしやすいこと、本件マンションの管理人Dが、本件車両持ち去りが起きた現場が写されていた防犯カメラのビデオを見たところ、そのカメラの映像には、上記持ち去りがあったとされる19時20分55秒から19時21分59秒までの時間(以下「本件車両持ち去り時間」という。)の数時間前から防犯カメラに人が近づくとセンサーが反応して点灯する本件ライトが点灯したままであった映像があったこと、そこで、Dは本件車両持ち去りのときに防犯カメラの映像に映った人物が現れる前に何者かが本件車両付近にいたのではないかと思ったとする部分があり、これによると本件車両を乗り去った人物は本件車両持ち去りの前にある程度長時間にわたって本件車両付近で何らかの作業をしていたのではないかということが考えられないではない。

 しかし、本件車両持ち去り時間の直前である19時18分47秒ないし19時20分50秒までの間は本件ライトは点灯していないし、その前の何時ころの時点まで点灯していたかについては証人Dは全く証言できず、上記山下証言にかかる事実を認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ないのであって、上記各証拠は上記認定を左右するものではないというべきである。

(2) 前記のとおり、被控訴人が所持していた鍵の本数については、被控訴人の説明が変遷しており、変遷の理由についても納得できる説明はないものと解さざるを得ないが、高級車である本件車両の購入時にサブキーが1本だけ交付されたということは考え難いから、結局、マスターキーが他に存した旨の被控訴人の供述部分は信用できるものというべきである。

 しかし、被控訴人が日ごろから、サブキーのみを利用しており、マスターキーはグローブボックス(被控訴人は「ダッシュボード」と供述しているが、「グローブボックス」の誤りであると認める[当庁民二日記第二七号調査嘱託に対する福岡トヨタ自動車株式会社の回答参照]。)に入れていた旨の被控訴人の供述は、到底採用することができない。

ア 被控訴人は、平成14年の3月か4月ころ、誤って本件車両内のトランクオープナーのメインスイッチをオフにして(ロックして)しまったが、そうすると、マスターキーで上記メインスイッチをオンに戻すか、マスターキーを直接トランクの鍵穴に差し込んで回すかしないとトランクを開ける方法はないところ、被控訴人はサブキーしか所持していなかったので、午前中に福岡市博多区比恵在住の福岡トヨタ自動車株式会社比恵営業所に赴き同日夕方までにトランクを開けてもらった旨陳述する(甲13)が、上記調査嘱託の結果によれば、そのころ被控訴人による本件車両の持ち込みはなかったこと及び上記のようなトラブルの場合マスターキーの複製をすることになり、その完成には1、2週間かかるので、1日以内にトランクが開けられることはないことが認められるのであって、上記陳述は採用し難いところである。


(ア) また、被控訴人は、次のとおりの趣旨を供述する(第1回)。
〈1〉 本件車両は平成12年12月に購入した中古車であるところ、購入後すぐにマスターキーが正常に作動しなくなり、一度修理してもらったが、その後またすぐに調子が悪くなったため、修理に出すためと、誤ってトランクオープナーのメインスイッチをオフにしてしまったときにトランクを開けるために、上記マスターキーをグローブボックスに入れていた。

〈2〉 本件車両購入直後ころから、3万円から5万円くらいの現金を裸のまま常時グローブボックスに入れていた。

〈3〉 そのほか、1枚1000円の国際電話用テレホンカード200枚くらいも常時グローブボックスに入れていた。

〈4〉 グローブボックスには鍵はかけていなかった。

(イ) しかし、前記のとおり、被控訴人が本件契約を締結する動機となった、本件車両内が物色された事件において被害がなかった事実に照らせば、グローブボックスに鍵がかけられていなかったものとは到底考えられず、その内容物が相当高額ないし高価なものであること及び本件車両のドア自体には盗難防止装置はついておらず、ドアを無理にこじ開けることが可能であることも、上記判断の相当性を裏付けるものというべきである。

(ウ) そして、グローブボックスに鍵がかけられていたとすれば、被控訴人のいう前記(ア)の〈1〉の収納理由は成り立たないことになる。

ウ また、本件車両のマスターキーは、リモコンボタン一つでドアの開閉ができ、グローブボックスの鍵の開閉ができ、また、直接トランクの鍵穴に差し込んでこれを開けられることに便利さがあるのであるから、故障してから約2年近くも修理せずにそのまま保管するというのは不自然である(被控訴人は、買物の荷物等をトランクに入れるときは、いちいち運転席に戻って[トランクオープナーで]トランクを開けた後トランクまで戻って収納していた旨供述する[第2回]が、極めて不自然であって、到底採用できない。)。

エ 以上によれば、合理的な理由もないのに、より便利なマスターキーを常用しないばかりか、専らサブキーを使用し、マスターキーはグローブボックスに入れっ放しにしていた旨の被控訴人の供述は到底採用できない。

(3) 以上検討したとおり、本件車両は、そのマスターキー又はサブキーがなければ移動が困難であること、本件車両の鍵の本数及びその保管状況にかかる被控訴人の説明が極めて不自然であるうえ、被控訴人が最終的に供述するに至った、マスターキーをグローブボックスに収納していたとの点については、同ボックスを施錠していたと説明しても施錠していなかったと説明しても合理性を欠くなどの事情が認められ、これらを総合すれば、本件車両を持ち去った人物が被控訴人とは全く無関係の第三者としてこれを窃取したものではなく、被控訴人と意を通じ合っていたのではないかとの疑念を払拭することができず、結局、本件については偶然性の証明がないものといわざるを得ない。

7 前記のとおり、本件契約に基づき保険金を請求する者は、被保険自動車の盗難その他偶然な事故の発生を主張立証すべき責任を負担するものと解されるところ、被控訴人は本件車両持ち去りが第三者による盗難その他偶然な事故によるものであることを証明するまでに至っていないから、本件契約に基づき保険金を請求することはできず、控訴人には同請求に応じて保険金を支払う義務はない。よって、被控訴人の本件請求は理由がない。

8 以上によれば、原判決は相当でないから、これを取り消して、被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
  (平成17年7月8日 口頭弁論終結)
以上:4,174文字

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