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平成19年4月17日最高裁判決第一審平成16年7月5日福岡地裁判決全文紹介3

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平成28年12月14日:初稿
○「平成19年4月17日最高裁判決第一審平成16年7月5日福岡地裁判決全文紹介2」の続きで、裁判所の判断後半部分です。

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三 そこで、以下、本件盗難事故が偶然に起きたものか否かについて判断する。
(1) 原告には、本件盗難事故当時、マンションのローンが相当程度残っていたが、一般に、不動産のローンを抱える人は多く、また、原告は会社の代表取締役を務め、比較的収入も安定しているといえ、盗難事故を偽装して450万円の保険金を不正に請求する動機としては不十分といわざるを得ない。

 また、被告は、原告には、本件車両の車検満了後は、本件車両を乗り続ける気持ちがなくなっていたと主張するが、原告に本件車両を乗り続ける気持ちがなくなっていたからといって、新車購入のためにわざわざ保険金を不正に請求する意図があったとまで直ちに推認することはできない。実際に、原告は、本件盗難事故後、保険金が現実に支払われていないにもかかわらずベンツを購入しており、また、平成14年夏ころに、本件車両を修理していることからすれば、本件盗難事故がなければ、本件車両を下取りに出して、車を普通に買い替えていた可能性も十分にあり、450万円の保険金を不正に請求してまで車を買い替えようとしていたとは考えにくい。

(2) 原告が車両保険に入った動機は、本件契約締結前は、原告に金銭的な余裕がなかったために入ることができなかったが、本件車両が一度いたずらに遭い、そのことが一つのきっかけとなったからというものであり、原告が本件契約を締結する際には、Bにその間の事情について話し、相談していることがうかがえる(甲第七号証)のであるから、本件契約の締結に至る経緯については、特に不自然な点は認められない。また、本件車両が中古車といえ、国産高級車であり、他の二台は10年以上も前に購入した古い車と原告の友人から借りていた車であることからすれば、原告が、本件車両に限って車両保険に入ることもあながち不自然ではない。

(3) 本件契約の保険金額は450万円であるが、原告の本件車両の購入金額は、390万円であり、本件盗難事故当時の本件車両と同種の車両の中古車市場価格は、329万円であり、保険金額として過大とまではいえず、また、原告は、本件契約の保険料(13万5010円)について、60パーセント割引がなされてもなお高いと思っていたというのであって、本件契約の保険金額について、不自然とはいえない。

(4) 被告は、原告が本件車両のローンを平成14年7月に完済し、それからわずか約3か月後の同年10月に本件盗難事故が発生しており、期間が短いと主張するが、本件車両のローンの完済から盗難事故発生までの期間が短いことから直ちに本件盗難事故が偶然な事故ではないということにはならない。

(5) 原告は、本件盗難事故の直前である平成14年夏ころに、車両保険を利用して、本件車両を修理しているが、盗難事故を偽装して保険金を詐取しようとしていたのであれば、軽微な物損にもかかわらず、わざわざ本件車両を修理する必要はないのであって、盗難事故を偽装しようとする者の行動としては不自然である。

(6) 原告は、本件盗難事故当時、本件車両のメインキーの所在について、明確な認識を有しておらず、サブキーをメインキーだと勘違いして所持しており、これをフィリピンにも持って行ったことがうかがえ、また、原告は、Aとの面談において、本件車両の鍵については、確証はないが、一本しかなかった旨話し、さらに、Aから要求されて、同様の内容の念書まで書いている。その一方で、原告は、本件訴訟の尋問において、メインキーとサブキーの区別をした上で、原告が所持していたのは、サブキーであり、メインキーは、ドアを開閉したり、トランクの鍵を開けるためのリモコンが故障し、修理に出すために本件車両のダッシュボードの中に入れていたことを思い出した。メインキーのことを忘れていた理由として、本件車両を購入してすぐに、メインキーをダッシュボードに入れたため、思い出すのに時間がかかった旨供述し、供述に変遷がみられる。原告が鍵の本数や保管状況について、供述を変遷させた理由は明らかではないが、原告がAと面談している時点では、鍵の本数について、有限会社エムオートに問い合わせたり、Bにも相談していることを考えると、その際の原告の本件車両のキーに関する認識の点について、原告が何らかの偽装工作をしているとは考えられず、一般的に、自動車の運転者は日頃使用しているキーにしか関心を持たないことを考えると、原告の鍵の供述に変遷があることが、直ちに、原告と本件盗難事故の犯人との間の関連性をうかがわせるものとはいえない。

 また、原告が盗難事故を偽装したというのであれば、盗難防止装置付きの車両の盗難事故を偽装するために、メインキーを盗まれた、または紛失した等、盗難防止装置が付いていたとしても盗まれる状況を作出する供述をする方が自然であるにもかかわらず、Aに対して、鍵は一本であった旨の念書まで書いており、盗難事故を偽装しようとしている者の行動としては不自然である。

(7) 本件車両は、イモビライザーが搭載されており、また、犯人が本件車両のそばに来てから、本件車両を発進させるまで一分程度しかないことから、本件盗難事故の犯人は、本件車両の専用キーを使用して本件車両を盗んだ可能性が高い。
 とすると、本件盗難事故の犯行態様としては、〈1〉犯人が、本件車両のドアをこじ開け、ダッシュボードにあるメインキーを使用してエンジンを始動させた、〈2〉犯人が、あらかじめ本件車両のメインキーを盗んでおいて、犯行当日にメインキーを使用してドアを開け、エンジンを始動させた、〈3〉原告が、盗難事故を偽装するために、犯人にメインキーを渡して、犯人がメインキーを使用してエンジンを始動させた等様々な可能性が考えられるので、上記本件盗難事故の態様だけでは、原告と犯人の結びつきを推認することはできない。
 また、原告は、盗難防止装置が付いていれば、車両を盗まれることはないと思っていたというのであって、かかる認識を有していれば、通常は、盗難事故を偽装しようとは思わないはずである。

(8) 被告は、本件駐車場を開けるリモコンは、それが駐車場のリモコンだと知っている人でないとわからないと主張する。確かに、リモコンがなければ、本件駐車場から本件車両を公道上に出すことはできないのであり、犯人がその情報を知らなければ、犯行は不可能である。しかしながら、リモコンは、本件マンションの駐車場を利用する人であれば、駐車場のリモコンであることは当然わかるのであり、原告だけがそのことを知っていたわけではなく、犯人は、原告以外からもその情報を得ることは十分に可能であったと考えられ、また、駐車場のリモコンの構造は極めて簡単な構造であり、それが駐車場のリモコンであることが認識できれば、その操作は簡単にできると推測される。したがって、上記事実から直ちに原告と犯人との結びつきを推認することはできない。

(9) 上記(1)ないし(8)の事情を総合すると、本件盗難事故は、原告がフィリピンに出発した当日に、約1分間の間に本件車両を本件駐車場から持ち去っており、その犯行は、あらかじめ本件車両に目星をつけた上での犯行とみられること、本件車両はイモビライザーが装着されており、犯行の状況からみると、犯人は、本件車両の専用キーを使用して本件車両を持ち出している可能性の強いことがうかがわれること、原告がサブキーをフィリピンに携帯していったとすれば、本件車両の盗難にはメインキーが利用されたと考えられること、原告は、本件車両の鍵の本数やその保管状況について、本件訴訟前と本件訴訟の尋問での供述に変遷があること、仮に、本件車両のメインキーが本件車両のダッシュボードに保管されていたとすると、原告と無関係の犯人が、メインキーの所在を事前に知っていたとは考えにくいにもかかわらず、本件盗難事故当時、犯人は、本件車両に一直線に向かってきているように見えることなど原告に不利益と考えられる事情が存在する。

 しかしながら、上記本件盗難事故の犯行態様は、本件車両の専用キーを取得すれば必ずしも原告が関係しなくとも行われ得ること、本件車両のメインキーについては、本件盗難事故当時、本件車両のダッシュボードに保管されていたかどうか客観的な事実としては必ずしも明らかではなく、犯人が事前に盗取していた可能性も否定できないこと、本件車両のキーの本数については、本件車両の販売者も明確に記憶していないこと、弁論の全趣旨によると、本件車両のキーは、新車時には三本あることが認められること、したがって、原告は、本件車両の専用キーの本数につき明確な記憶がないのに、被告側から問いつめられて、一本であるとの書面を作成した可能性が否定できないこと、本件車両は、国産高級車であり、窃盗集団の盗難の対象とされている車種であること、原告には、必ずしも本件犯行を行う動機が認められないこと、本件契約の締結の経緯に特段不自然な事情はなく、これまでに盗難で車両保険を使用したことや、保険適用で原告に責められるような不正があったことまではうかがえないこと、被告が、本件盗難事故について調査を開始したのは、それ以前の接触事故に関する保険金について、原告との間でトラブルがあったためであり、本件盗難事故自体に問題点を含んでいたためではないこと、被告は、本件盗難事故の犯人と原告との結びつきについて全く調査をしていないことが認められるから、上記のとおり、本件盗難事故が原告以外の犯人により行われていることが明確な本件においては、ビデオに映っている犯人と原告との結びつきが疑われるような事情が全く認められない以上、本件盗難事故における偶然性は立証されたものとして処理されてもやむを得ないと解される。

四 したがって、本件車両の盗難は、偶然に起きた事故であると認められ、これを覆すに足りる事情はないというべきである。

第四 以上によれば、原告の請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用し、仮執行宣言につき同法259条一項を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 杉山正士 川﨑聡子 森中剛)
以上:4,275文字

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