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ファウルボールによる失明について責任内容を変更した札幌高裁判決紹介2

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平成28年 6月22日:初稿
○「ファウルボールによる失明について責任内容を変更した札幌高裁判決紹介1」の続きで、球場側の「瑕疵」の有無についての裁判所の判断です。平成28年5月20日札幌高裁判決(裁判所ウェブサイト、ウエストロー・ジャパン)は、本件ドームは、防球ネットは取り外されていたが「内野フェンスの高さは他球場と比較して特に低かったわけではない」と指摘し、注意喚起の放送などスタッフらの安全対策を考慮すると「通常の観客を前提とすれば、安全性を欠いたとは言えない」として、「瑕疵があったとは認められない」と結論付けました。

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3 争点2(本件ドームについての「瑕疵」の有無)について
(1) 民法717条1項にいう土地の工作物の設置又は保存の「瑕疵」,及び国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の「瑕疵」とは,それぞれ当該工作物又は営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,上記各「瑕疵」の有無については,当該工作物又は営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきである。

(2)
ア 本件においては,土地の工作物かつ公の営造物である本件ドームの設置又は保存若しくは管理に「瑕疵」があったか否かが問題となっているところ,本件ドームは,プロ野球に限らず,サッカー等各種の興業が実施されている多目的施設であるものの,本件球団の本拠地としてプロ野球の試合が頻繁に行われることが予定されている球場施設(以下「プロ野球の球場」ということがある。)であって,これが主要な用途の一つであり,本件事故もプロ野球の観戦中に起きたものであるから,本件ドームの「瑕疵」の有無については,プロ野球の球場としての一般的性質に照らして検討すべきである。

イ プロ野球は,野球競技を専門的・職業的に行うプロ野球選手が所属する複数の球団が複数の球場において一定数の試合を行ってその勝敗を競い,各球場において観客が対価を支払って試合を観戦することを基本として成立している。プロ野球の試合を観戦するための各球場の観客席は,プロ野球選手がプレーするグラウンドを取り囲む形で設けられており,プロ野球の試合においては,ボールとして硬式球が使用され,上記プロ野球選手たちがプレイをするため,試合中に使用されるボールは常に1個であるが,投手が投じるボールは,スピードのかなり速いものや鋭い変化をするものが多く,打者がバットを振る際のスイングスピードもかなり速く,しかも,打者は,投手が投じたボールをバットで守備側の選手に捕球されないようなエリア(ホームランとなる外野席を含む。)に打ち返そうとし,他方,投手は,打者に向けて,打者の意図する打撃をさせないように意図してボールを投じるものであるから,1試合につき合計約20球程度は,打者の打ったボールが観客席に飛来することがある(乙イ65,86)。

 もし一切の安全設備がなければ,観客席の位置によっては様々なスピード及び軌道の打球が飛来する可能性があり,広い球場で1個のボールが観客の身体の枢要部に衝突する確率は低いものの,観客に硬式球であるボールが衝突した場合には,当該観客が重大な傷害を負ったり,死亡する危険さえあり,実際にも,プロ野球の球場では,観客にファウルボール等が衝突する事故が少なからず発生しており,当該観客が救急車で搬送されたり,骨折等の比較的重い結果が生じるケースも,多くはないものの,本件事故前にも毎年数件はあった(甲32,39,乙イ65,乙ハ1ないし5)。打球は,観客席のどこに落ちた場合であっても危険であるものの,一般的には,ボールの滞空時間が長ければ長いほど,空気抵抗により減速し,衝突時の速度や衝撃も弱くなるから,バッターボックスから離れれば離れるほど,相対的には上記危険の程度も低くなると考えられる(甲13,乙イ100)。球場におけるプロ野球の試合の観戦は,本質的に上記のような危険性を内在しているものである(以上につき,顕著な事実,弁論の全趣旨)。

 したがって,プロ野球の球場の所有者ないし管理者は,ファウルボール等の飛来により観客に生じ得る危険を防止するため,その危険の程度等に応じて,グラウンドと観客席との間にフェンスや防球ネット等の安全設備を設けるなどの安全対策を講じる必要があると解される。

ウ 他方で,プロ野球は,我が国において長年にわたり親しまれ,広く普及しているプロスポーツであって,その観戦は,テレビ等のメディアを通じたものも含め,国民的な娯楽の一つとなっているから,プロ野球の試合を球場で観戦する場合の上記の本質的・内在的な危険性も,少なくとも自ら積極的にプロ野球の試合を観戦するために球場に行くことを考える観客にとっては,通常認識しているか又は容易に認識し得る性質の事項であると解され,観客は,相応の範囲で,プロ野球というプロスポーツの観戦に伴う上記の危険を引き受けた上で,プロ野球の球場に来場しているものというべきである。

 したがって,上記の本質的・内在的な危険性を回避するため,プロ野球の球場に設置された相応の安全設備及びそれを補完するものとして実施されている他の安全対策の存在を前提としつつ,観客の側にも,基本的にボールを注視し,ボールが観客席に飛来した場合には自ら回避措置を講じることや,それが困難となりそうな事情(幼い子供を同伴していること等)が観客側に存する場合には,予め上記危険性が相対的に低い座席(バッターボックスからなるべく離れた座席等)に座ることなどの相応の注意をすることが求められており,本件当時も,そのことが前提とされていたというべきである。

 もっとも,多数来場する観客らの中には,野球に関する知識や経験が乏しいことや年齢等の理由により,上記の危険性をあまり認識していない者や自ら回避措置を講じることを期待し難い者も含まれていると解されるものの,そのような者に対する上記危険性の具体的な告知や追加の安全対策等は,プロ野球の試合を主催する球団による興業の具体的な運営方法の問題というべきであって,仮にそれが十分に行われなかったとしても,当該球団と当該観客との関係で個別に安全配慮義務違反となる余地があり得ることは別として,通常の観客を前提として通常有すべき安全性を欠いているか否かを判断すべき上記「瑕疵」の有無を左右する事情とはいえない。

エ また,プロ野球の試合の観戦については,近時,選手に近い目線で野球観戦を楽しめるよう,グラウンドの最前線(ファウルゾーン)までせり出す形で観客席を設けている球場も複数あり,それらの観客席が好評を博していること,上記の危険性を踏まえつつも,より一層の臨場感を求める観客らの要望を受けて,防球ネットの全部又は一部を撤去するなどした球場も複数あること(以上につき,乙イ29,30,65,66,乙ロ2)等に鑑みると,臨場感も球場におけるプロ野球観戦にとっての本質的な要素となっており,これが社会的にも受容されていたものと認められる。したがって,安全性の確保のみを重視し,臨場感を犠牲にして徹底した安全設備を設けることは,プロ野球観戦の魅力を減殺させ,ひいては国民的娯楽の一つであるプロ野球の健全な発展を阻害する要因ともなりかねない。

 これに対し,被控訴人は,臨場感の確保は観客の生命・身体の安全に反しない限りで考慮され得るものである旨主張するが,上記「瑕疵」の有無は,上記(1)のとおり,当該施設の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断されるべきものである以上,プロ野球の球場として通常の観客がどの程度の安全設備を備えることを求めているか及びどのような野球場が現実に社会的に受容されているかということも,当然考慮されるべきであるから,臨場感の確保が安全性の確保とともに重要な判断要素となることは否定できない。

 なお,本件事故後に実施された各種調査の結果によれば,最近でも,臨場感よりも観客の安全性の方を優先すべきであるか否かについて,プロ野球ファンの中でも意見が割れている状況であり(甲45,乙イ75の4,81の3,109),ましてや本件事故当時においては,社会通念上,臨場感を犠牲にしてでも,安全性の確保を重視して,徹底した安全設備を設けるべきであるとの考えが一般的であったとは認められない。

オ 以上の諸事情に鑑みると,プロ野球の球場の「瑕疵」の有無につき判断するためには,プロ野球の試合を観戦する際の上記危険から観客の安全を確保すべき要請,観客に求められる注意の内容及び程度,プロ野球観戦にとっての本質的要素の一つである臨場感を確保するという要請,観客がどの程度の範囲の危険を引き受けているか等の諸要素を総合して検討することが必要であり,プロ野球の球場に設置された物的な安全設備については,それを補完するものとして実施されるべき他の安全対策と相まって,社会通念上相当な安全性が確保されているか否かを検討すべきである。

(3) 以上を前提として,本件ドーム(特に本件座席付近)における安全設備及びそれを補完するものとして実施されるべき他の安全対策について検討すると,本件ドームの1塁側内野席前に設置されていたグラウンドと観客席との間の内野フェンスの高さが,本件座席付近の前において,約2.9メートルであったこと,かつては上記フェンスの上部に設置されていた防球ネット(本件座席付近の前において,グラウンドからの高さが約5メートルであったもの)は,より一層の臨場感を求める観客らの要望を受けて,平成18年に撤去されたこと,仮に上記防球ネットが設置されたままであったとしても,本件打球の本件座席への飛来を遮断することはできなかったこと,本件当時に本件ドームにおいて実施されていた他の安全対策の内容(ファウルボールの危険性に関する観客に対する注意喚起の放送,及び観客席に入りそうなファウルボールが放たれた際に観客に対してそのことを知らせるための警笛を含む。),本件当時の本件ドーム以外のプロ野球の各球場における内野席前のフェンス及び防球ネットの高さ,並びに公益財団法人日本体育施設協会が作成した「屋外体育施設の建設指針」(平成24年改訂版)では,硬式野球場における内野フェンスの高さに関し,バックネットの延長上に外野席に向かって高さ3メートル程度の防球柵を設けるものと定められていたこと等は,原判決30頁24行目から32頁9行目まで,32頁25行目冒頭から33頁3行目の「(乙イ5,6,36)。」まで,35頁24行目の「掲記の証拠」から36頁19行目末尾までに各記載のとおりである(ただし,原判決31頁5行目の「平成18年」の次に「より一層の臨場感を求める観客らの要望を受けて」を加え,6行目の「ものである」の次に「(乙イ84,85,94,乙ロ2)」を加える。)。

 そして,上記の各事実によれば,本件当時,本件ドームにおける上記内野フェンスの高さは,上記指針及び他のプロ野球の球場におけるフェンス等と比較しても,特に低かったわけではないことが認められる。

 上記の諸事情に照らすと,本件当時,本件ドーム(特に本件座席付近)における上記内野フェンスは,本件ドームにおいて実施されていた他の上記安全対策を考慮すれば,通常の観客を前提とした場合に,観客の安全性を確保するための相応の合理性を有しており,社会通念上プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない。

(4) 以上によれば,本件ドームに民法717条1項ないし国家賠償法2条1項所定の「瑕疵」があったとは認められないから,被控訴人の控訴人らに対する前記(a),(d)及び(f)の各請求はいずれも理由がない。


(5) これに対し,被控訴人は,
①本件ドームに多数来場する観客らの中には,野球に関する知識がほとんどない観客,子供の世話をしながら観戦する観客,高齢者,年少者(幼児)など,上記の危険性を認識していない者や,打球を注視した上で危険性を察知し,適切な回避行動をとることを期待し難い者も多数含まれているから,そのような者に対する打球の衝突事故を回避し得るだけの安全設備を設けるべきである,
②本件ドームにおける観戦状況からすれば,観客の誰もが常時試合に集中し続けることは想定し難く,聴覚や視覚によって打球による危険性を認識するには限界があり,打球の軌道予測を的確に行って衝突を回避することも困難である,
③本件ドームの内野席前方は前の席の客が視線の障害となることや,打球が照明と重なること等により,観客の回避行動には限界があり,最低限期待される程度の注意を尽くしたとしても,回避し得ない打球が観客席に飛来することはあり得るから,本件ドームにおいては,そのような打球による衝突事故を回避し得るだけの安全設備を設けることが求められている,
④本件打球は,観客に期待し得る反応速度よりも早く本件座席に到達したものであるから,観客の注意をもって衝突を回避することはおよそ不可能なものであった,
⑤控訴人ファイターズが実施していた注意喚起等の安全対策(本件契約約款による警告,観戦チケット裏面の記載による警告,本件ドーム内の大型ビジョンの映像による注意喚起,場内アナウンスによる注意喚起,警笛による警告)は,観客に対して十分に野球観戦の危険性を絶えず心掛けさせる効果のあるものではなかった
などとして,本件ドームには,少なくとも本件打球を回避し得るだけの安全設備が設置されるべきであったから,民法717条1項及び国家賠償法2条1項所定の「瑕疵」がある旨主張する。

 しかしながら,本件全証拠によっても,通常の観客にとって,基本的にボールを注視し,ボールが観客席に飛来した場合には自ら回避措置を講じることが困難であるとは認められないし,本件打球が通常の観客の注意をもって衝突を回避することがおよそ不可能なものであったとも認められない。そして,上記「瑕疵」の有無については,通常の観客を前提として判断すべきものであること,多数来場する観客の中には上記危険性をあまり認識していない者や自ら回避措置を講じることを期待し難い者が含まれているとしても,そのような者を前提として,危険がほとんどないような徹底した安全設備を設けることを法律上要求することは,プロ野球観戦の娯楽としての本質的な要請に反する面があり,相当とはいえないこと,本件当時,本件ドーム(特に本件座席付近)における上記内野フェンスは,他の安全対策を考慮すれば,通常の観客を前提とした場合に,観客の安全性を確保するための相応の合理性を有しており,通常有すべき安全性を欠いていたとはいえないから,本件ドームに上記「瑕疵」があったとは認められないことは,上記(2)ないし(4)で説示したとおりである。被控訴人の上記各主張を考慮しても,上記の判断は左右されない。


 
以上:6,147文字

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