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ファウルボールによる失明について責任内容を変更した札幌高裁判決紹介1

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平成28年 6月21日(火):初稿
○「ファウルボールによる失明について責任を認めた札幌地裁判決理由紹介1」の続きです。
平成27年3月26日札幌地裁判決(裁判所ウエブサイト)は、プロ野球の試合を観戦中、打者の打ったファウルボールが原告の顔面に直撃し右眼球破裂により失明した事故について、工作物責任(民法717条1項)及び営造物責任上の瑕疵(国家賠償法2条1項)を認定し、原告の北海道日本ハムファイターズと札幌市に対する損害賠償請求の殆どを認めていました。

○ところが、その控訴審の平成28年5月20日札幌高裁判決(裁判所ウェブサイト、ウエストロー・ジャパン)は、プロ野球の試合を観戦中、打者の打ったファウルボールが被控訴人の顔面に直撃し右眼球破裂により失明した事故について、球場に設けられていた安全設備等に工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵があったとは認められないとして被控訴人の控訴人らに対する工作物責任(民法717条1項)に基づく損害賠償請求をいずれも棄却しました。

○しかし、球団運営会社は野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務を尽くしたとは認められないとして債務不履行責任(安全配慮義務違反)を認めて球団運営会社に対し損害賠償請求として約3300万円の支払を命じました。

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主  文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人ファイターズは,被控訴人に対し,3357万5221円及びこれに対する平成24年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人の控訴人ファイターズに対するその余の請求並びに控訴人札幌ドーム及び控訴人札幌市に対する各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,控訴人ファイターズと被控訴人との間においては,これを4分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人ファイターズの各負担とし,控訴人札幌ドーム及び控訴人札幌市と被控訴人との間においては,全部被控訴人の負担とする。
5 この判決の第2項は,仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人が,札幌市豊平区所在の全天候型多目的施設である「札幌ドーム」(以下「本件ドーム」という。)において平成22年8月21日に行われたプロ野球の試合(以下「本件試合」という。)を1塁側内野自由席18番通路10列30番の座席(以下「本件座席」という。)で観戦中に,打者の打ったファウルボールが被控訴人の顔面に直撃して右眼球破裂等の傷害を負った事故(以下「本件事故」という。)について,本件ドームには通常有すべき安全性を備えていない瑕疵があった,控訴人らは観客をファウルボールから保護するための安全設備の設置及び安全対策を怠ったなどと主張して,①本件試合を主催し,本件ドームを占有していた控訴人ファイターズに対しては,(a)工作物責任(民法717条1項),(b)不法行為(民法709条)又は(c)債務不履行(野球観戦契約上の安全配慮義務違反)に基づき,②指定管理者として本件ドームを占有していた控訴人札幌ドームに対しては,(d)工作物責任(民法717条1項)又は(e)不法行為(民法709条)に基づき,③本件ドームを所有していた控訴人札幌市(以下「控訴人市」という。)に対しては,(f)営造物責任(国家賠償法2条1項)又は(g)不法行為(民法709条)に基づき,損害賠償金4659万5884円及びこれに対する平成22年8月21日(本件事故の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

 原審は,本件ドームにおける安全設備等の内容は本件座席付近で観戦している観客に対するものとしては通常有すべき安全性を欠いており,本件ドームには工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵があったと認められるなどと判断して,被控訴人の控訴人らに対する上記(a),(d)及び(f)の各請求を4195万6527円及びこれに対する上記遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,被控訴人のその余の請求をいずれも棄却した。
 これに対し,控訴人らが各敗訴部分を不服として控訴した。

2 前提事実,主たる争点及び争点に関する当事者の主張等は,以下のとおり補正するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3,並びに「第3 争点に関する当事者の主張等」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決書5頁8行目の「観戦チケットを購入し」の次に「て,控訴人ファイターズとの間で本件試合に係る野球観戦契約(以下「本件観戦契約」という。)を締結し」を加える。

(2) 原判決書5頁16行目末尾を改行して,次のとおり加える。
 「本件試合以前に,多数の観客との間で画一的に適用されるものとして控訴人ファイターズを含むプロ野球12球団らが策定した試合観戦契約約款(乙イ2。以下「本件契約約款」という。)には,免責条項として,以下のような定めが存在した(第13条。以下「本件免責条項」という。)。
 1項 主催者及び球場管理者は,観客が被った以下の損害の賠償について責任を負わないものとする。但し,主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の責めに帰すべき事由による場合はこの限りでない。
 ホームラン・ボール,ファール・ボール,その他試合,ファンサービス行為又は練習行為に起因する損害
 暴動,騒乱等の他の観客の行為に起因する損害
 球場施設に起因する損害
 本約款その他主催者の定める規則又は主催者の職員等の指示に反した観客の行為に起因する損害
 第6条の入場拒否又は第10条の退場措置に起因する損害
 前各号に定めるほか,試合観戦に際して,球場及びその管理区域内で発生した損害
 2項 前項但書の場合において,主催者又は球場管理者が負担する損害賠償の範囲は,治療費等の直接損害に限定されるものとし,逸失利益その他の間接損害及び特別損害は含まれないものとする。但し,主催者若しくは主催者の職員等又は球場管理者の故意行為又は重過失行為に起因する損害についてはこの限りでない。」

(3) 原判決書5頁25行目末尾を改行して,次のとおり加える。
「(6) 過失相殺の当否(争点6)」

(4) 原判決書5頁26行目の「(6)」を「(7)」と,「争点6」を「争点7」とそれぞれ改める。

(5) 原判決書9頁15行目の「ある。」の次に「しかも,①の本件契約約款については,その存在が観客にアナウンスされておらず,事前のチェックを促すような注意喚起もなされていなかったし,②のチケット裏面の記載については,被控訴人のように入場直前にチケットを受け取り,すぐに試合観戦を開始する観客にとっては,何ら警告の役割を果たしえないものであった。」を加える。

(6) 原判決書18頁10行目の「発生するおそれがある」の次に「上,控訴人ファイターズは,ファウルボールの危険性を理解していない女性や子供などの新しい客層を積極的に開拓するという営業戦略を展開しており,野球に関心のない被控訴人が本件試合を観戦したのも,控訴人ファイターズが親による引率を前提として小学生である被控訴人の子らを本件試合に招待したためであったのである」を加える。

(7) 原判決書18頁12行目の「設けるべき」を「設けたり,上記の客層に含まれる被控訴人に対して,上記危険性に関する十分かつ具体的な注意喚起を行うべき」と改め,14行目の「安全設備を設置する」を「安全設備の設置及び具体的な注意喚起等の安全対策を行うべき」と改める。

(8) 原判決書18頁18行目の「前記2(2)及び3(2)のとおり,」の次に「本件ドームに設置された安全設備と控訴人ファイターズが行っていた安全対策等の諸施策等からすれば,観客に対する安全確保が適切に行われていたことが明らかであるから,」を加える。

(9) 原判決書19頁24行目末尾を改行して,次のとおり加える。
 「6 争点6(過失相殺の当否)について
(1) 控訴人らの主張
 本件ドームの内野席前方に座る観客には,ファウルボールが衝突する事故が発生する危険を回避するため,試合の状況に意識を向け,投手が投球し,打者が打撃する可能性があるタイミングにおいては,可能な限りグラウンド内のボールの所在や打球の行方(少なくとも,打者が打つ瞬間を見たのであれば,その後の打球の行方)を目で追うべき相応の注意義務があった。

 ところが,被控訴人は,本件当時,ファウルボールが観客席に飛んでくると危ないという認識を有しており,しかも,打者が本件打球を打った瞬間を見ていたにもかかわらず,その後,漫然と本件打球から目を離し,本件打球の行方を目で追うことをしなかった。
 また,被控訴人において,打者が本件打球を打った後も本件打球の行方を目で追っていれば,自らの方向にボールが飛来することは予見可能であり,かつ,十分に回避可能であった。
 したがって,被控訴人には本件事故の発生につき過失があったから,仮に控訴人ファイターズに損害賠償責任があるとしても,相応の過失相殺がなされるべきである。

(2) 被控訴人の主張
 野球に関する知識が乏しく,ファウルボールの危険性を十分に認識していなかった被控訴人にとって,高速のファウルボールが飛来してくることは予見できなかったし,約2秒間という短時間の間に高速で飛来する打球の軌道を的確に予測し,回避行動をとることもできなかったから,被控訴人には過失がない。」

(10) 原判決書19頁25行目の「6 争点6」を「7 争点7」と改める。

(11) 原判決書20頁2行目の「主催者及び球場管理者」から4行目の「成立していた」までを「本件免責条項所定の合意が成立していた」と改める。

(12) 原判決書20頁7行目末尾を改行して,次のとおり加える。
 「工作物責任については,故意又は重大な過失という主観的要件による限定は無意味であること,人身損害を想定していながら,重傷の場合や後遺障害が残るような場合,更には生命侵害の場合さえも想定されるのに,賠償する損害の範囲を治療費等の直接損害に限定することには全く合理性がないこと,野球場において通常考えられる本件事故のような場合には,実務上人身損害につき損害賠償額の基準が確立されているから,主催者側にとって損害額の総額の事前予測が困難であるとはいえないこと等に鑑みると,本件免責条項は,消費者契約法8条,10条により無効である。」

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の控訴人ファイターズに対する前記(c)の請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)を3357万5221円及びこれに対する平成24年7月20日(控訴人ファイターズに対する訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,被控訴人の控訴人ファイターズに対するその余の請求並びに控訴人札幌ドーム及び控訴人市に対する各請求をいずれも棄却するのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

2 争点1(本件事故の態様)について
 以下のとおり補正するほか,原判決書「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決書20頁13行目の「小学生を招待する企画」の次に「(以下「本件企画」という。)」を加え,15行目の「原告は,」の次に「野球に関する知識も関心もなかったが,」を加える。

(2) 原判決書20頁23行目末尾に次のとおり加える。
 「本件企画においては,内野自由席の中から保護者が自由に席を選択できるものとされており,被控訴人の夫が選択した本件座席を含む上記各座席も,本件企画において選択可能とされていた席であった。」

(3) 原判決書21頁16行目の「打者が本件打球を打った後,」を「打者が本件打球を打った瞬間は見ていたが,その後は」と改める。

以上:4,973文字

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