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時効取得完成後登場第三取得者背信的悪意者該当要件判断最高裁判決紹介

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平成28年 6月15日(水):初稿
○甲が時効取得した不動産について、その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において、乙が、当該不動産の譲渡を受けた時に、甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは、乙は背信的悪意者に当たるとした平成18年1月17日最高裁判決(判タ1206号73頁、判時1925号3頁)を全文紹介します。

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主  文
1 原判決のうち別紙記載の部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。
3 上告人らのその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。 

理  由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 上告人らは,鮮魚店を開業する目的で,平成7年10月26日,A株式会社から徳島県鳴門市**231番2,232番3及び275番1の各土地を購入して,同日付けで,その所有権移転登記を了した。
 上告人らは,上記開業のための資金の融資を受ける予定の取引銀行から,上記各土地の公道(国道*号線)に面する間口が狭いとの指摘を受けたため,その間口を広げる目的で,平成8年2月6日,Bから同所234番の土地(地目ため池,地積52m2。以下「本件土地」といい,上記各土地と併せて「本件土地等」という。)を代金80万円で購入して,同月13日付けで,その所有権移転登記を了し,また,同年4月18日,Cから同所274番2の土地を購入して,同日付けで,その所有権移転登記を了した。

(2) 被上告人は,本件土地の西側に位置する同所231番1,232番1,232番2,233番2及び235番3の各土地を所有し,同所231番1及び232番1の各土地上に通称「D会館」と呼ばれる建物(以下「本件建物」という。)を所有している。
 なお,上記の各土地の公図上の位置関係は,第1審判決別紙公図の写しのとおりである。

(3) 第1審判決別紙図面(以下「本件図面」という。)の(1),⑤,④,(2),②,①,(3),(4),3105,(5),⑥,(6),(1)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下「本件通路部分」という。)は,コンクリート舗装がされており,国道11号線から被上告人所有の本件建物への進入路として利用されている。

 本件通路部分は,Eが,昭和48年3月から,同所231番1,232番1,232番2の各土地及びその地上建物(昭和45年建築。以下「従前建物」という。)のための専用進入路として,所有の意思をもって,上記各土地並びにそのころ取得した同所233番2及び235番3の各土地の一部と信じて,占有使用するようになったものであり,Fら10名が,昭和61年4月にEから上記各土地及び従前建物を購入し,その約3か月後,本件通路部分をコンクリート舗装したものである。そして,被上告人は,平成3年7月,Fら10名から上記各土地及び従前建物の現物出資を受け,本件通路部分を引き続き従前建物及びその後建築された本件建物のための専用進入路として使用して現在に至っている。

(4) 本件土地の位置は,本件図面の3104,⑤,3102,3100,3101,(3),(4),3105,(5),⑥,3106,3104の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分である。
 本件通路部分のうち,本件図面の(1),⑤,3104,(1)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分は,上告人ら所有の同所232番3の土地の一部であり,本件図面の(1),(6),⑥,3106,3104,(1)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下「本件通路部分A」という。)は,被上告人所有の同所232番2及び233番2の各土地の一部である。

2
(1) 本件本訴請求事件は,上告人らが,被上告人に対し,本件土地の位置が本件図面の3100,3101,①,3103,3105,3107,⑦,⑥,3106,3104,⑤,3102,3100の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下「本件係争地」という。)であると主張し,上告人らが本件係争地につき所有権を有することの確認を求めるとともに,本件係争地のうち本件図面の3105,3103,①,②,③,④,⑤,3104,3106,⑥,(5),3105の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分内のコンクリート舗装の撤去を求めるものである。

 これに対し,被上告人は,(ア) 本件係争地のうち本件通路部分と重なる部分(以下「本件通路部分B」という。)は,被上告人所有の同所232番2,233番2及び235番3の各土地に当たる,(イ) 仮に(ア)が認められないとしても,被上告人は,前々主及び前主の占有を併せて,昭和48年2月から20年間本件通路部分Bを占有したことにより,所有権又は通行地役権を時効取得した,(ウ) 仮に(ア),(イ)が認められないとしても,同所233番2及び235番3の各土地は幅が2mしかなく自動車の通行が不可能であるから,被上告人は,本件通路部分Bについて,囲繞地通行権を有する,(エ) 仮に(ア),(イ),(ウ)が認められないとしても,上告人らは被上告人を困惑させる目的で本件土地を廉価で購入したものであるから,上告人らの請求は権利の濫用に当たるなどと主張した。

(2) 本件反訴請求事件は,被上告人が,上告人らに対し,(ア) 本件通路部分のうち本件通路部分Aを除く部分(以下「本件通路部分A」という。)は,被上告人所有の同所232番2,233番2及び235番3の各土地に当たる,(イ) 仮に(ア)が認められないとしても,被上告人は,前々主及び前主の占有を併せて,昭和48年2月から20年間本件通路部分Aを占有したことにより,所有権又は通行地役権を時効取得したなどと主張し,主位的に,被上告人が本件通路部分Aにつき所有権を有することの確認を求め,予備的に,被上告人が本件通路部分Aにつき通行地役権を有することの確認を求めるものである。

(3) 上告人らは,被上告人の(1)(イ)及び(2)(イ)の各主張に対して登記の欠缺を主張し,被上告人は,これに対して上告人らが背信的悪意者に当たると主張した。

(4) なお,被上告人は,第1審において,本件通路部分の全体につき所有権確認等を求めていたところ,このうち本件通路部分Aの所有権確認を求める部分は,第1審で認容され,上告人らから不服申立てがなかったので,原審での審理判断の対象とならなかったものである。

3 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの本訴請求を本件係争地のうち本件図面の⑤,3102,3100,3101,①,②,(2),④,⑤の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の土地が上告人らの所有に属することの確認を求める限度で認容し,その余を棄却し,被上告人の反訴請求(主位的請求)を全部認容した。

(1) 本件土地の位置は,本件図面の3104,⑤,3102,3100,3101,(3),(4),3105,(5),⑥,3106,3104の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分と認められるから,上告人らの本訴請求のうち,本件図面の3105,3107,⑦,⑥,(5),3105の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の土地の所有権確認を求める部分は,理由がない。

(2) 本件通路部分Aの取得時効の成否について検討するに,被上告人の前々主は,昭和48年3月,本件通路部分Aを所有の意思をもって占有を始め,昭和61年4月,被上告人の前主がその占有を承継し,さらに,被上告人が引き続き所有の意思をもって占有を継続したことが認められるから,被上告人は,昭和48年3月から20年が経過した平成5年3月に本件通路部分Aの所有権を時効取得したものというべきである(なお,昭和61年4月からの前主の占有がその開始時において善意無過失であったとは認められない。)。

 上告人らは,上記時効完成後の平成7年10月に同所231番2,232番3及び275番1の各土地を,平成8年2月6日に本件土地を,同年4月18日に同所274番2の土地をそれぞれ購入したことが認められるところ,上告人らは,上記各土地の購入時において,(ア) 被上告人所有の同所232番1及び231番1の各土地上に従前建物と本件建物が建っており,被上告人が本件土地の大部分と重なる本件通路部分Aをその専用進入路としてコンクリート舗装した状態で利用していること,(イ) 被上告人が本件通路部分を利用できないとすると,公道からの進入路を確保することが著しく困難となることを知っていたことが認められる。そして,上告人らが被上告人を困惑させる目的で本件土地を購入したものとは認められないが,上告人らにおいて調査をすれば,被上告人が本件通路部分Aを時効取得していることを容易に知り得たというべきであるから,上告人らは,被上告人が時効取得した所有権について登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないといわざるを得ない。

4 しかしながら,原審の上記判断(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 時効により不動産の所有権を取得した者は,時効完成前に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,時効取得した所有権を対抗することができるが,時効完成後に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,特段の事情のない限り,これを対抗することができないと解すべきである(最高裁昭和30年(オ)第15号同33年8月28日第一小法廷判決・民集12巻12号1936頁,最高裁昭和32年(オ)第344号同35年7月27日第一小法廷判決・民集14巻10号1871頁,最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁,最高裁昭和38年(オ)第516号同41年11月22日第三小法廷判決・民集20巻9号1901頁,最高裁昭和41年(オ)第629号同42年7月21日第二小法廷判決・民集21巻6号1653頁,最高裁昭和47年(オ)第1188号同48年10月5日第二小法廷判決・民集27巻9号1110頁参照)。

 上告人らは,被上告人による取得時効の完成した後に本件通路部分Aを買い受けて所有権移転登記を了したというのであるから,被上告人は,特段の事情のない限り,時効取得した所有権を上告人らに対抗することができない。

(2) 民法177条にいう第三者については,一般的にはその善意・悪意を問わないものであるが,実体上物権変動があった事実を知る者において,同物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって,このような背信的悪意者は,民法177条にいう第三者に当たらないものと解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第904号同40年12月21日第三小法廷判決・民集19巻9号2221頁,最高裁昭和42年(オ)第564号同43年8月2日第二小法廷判決・民集22巻8号1571頁,最高裁昭和43年(オ)第294号同年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2671頁,最高裁昭和42年(オ)第353号同44年1月16日第一小法廷判決・民集23巻1号18頁参照)。

 そして,甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。

 取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであることにかんがみると,乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるからである。


(3) 以上によれば,上告人らが被上告人による本件通路部分Aの時効取得について背信的悪意者に当たるというためには,まず,上告人らにおいて,本件土地等の購入時,被上告人が多年にわたり本件通路部分Aを継続して占有している事実を認識していたことが必要であるというべきである。

 ところが,原審は,上告人らが被上告人による多年にわたる占有継続の事実を認識していたことを確定せず,単に,上告人らが,本件土地等の購入時,被上告人が本件通路部分Aを通路として使用しており,これを通路として使用できないと公道へ出ることが困難となることを知っていたこと,上告人らが調査をすれば被上告人による時効取得を容易に知り得たことをもって,上告人らが被上告人の時効取得した本件通路部分Aの所有権の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に当たらないとしたのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち別紙記載の部分は破棄を免れない。そして,上告人らが背信的悪意者に当たるか否か等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すとともに,上告人らのその余の上告を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・濱田邦夫,裁判官・上田豊三,裁判官・藤田宙靖,裁判官・堀籠幸男)

別紙
1 上告人らの被上告人に対する本訴請求のうち
(1) 第1審判決別紙図面の①,②,(2),④,⑤,3104,3106,⑥,(5),3105,3103,①の各点を順次直線で結ぶ線で囲まれた範囲内の土地の所有権確認請求を棄却した部分

(2) 第1審判決別紙図面の①,②,③,④,⑤,3104,3106,⑥,(5),3105,3103,①の各点を順次直線で結ぶ線で囲まれた範囲内の土地のコンクリート舗装の撤去請求を棄却した部分

2 被上告人の上告人らに対する反訴請求のうち第1審判決別紙図面の①,②,(2),④,⑤,3104,3106,⑥,(5),3105,(4),(3),①の各点を順次直線で結ぶ線で囲まれた範囲内の土地の所有権確認請求を認容した部分

別紙図面


求積表
省略
以上:6,044文字

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