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新規パチンコ店出店阻止目的寄付行為が違法とされた札幌地裁判決全文紹介2

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平成28年 4月14日(木):初稿
○「新規パチンコ店出店阻止目的寄付行為が違法とされた札幌地裁判決全文紹介1」の続きで、争点に対する判断です。



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第5 争点に対する判断
1 争点1(被告事業者らと被告Kとの関連共同性)について

(1) 原告が本件許可を受けることができなくなったのは、直接的には、争いのない事実等10のとおり、被告Kが本件認可を取得したためであるということができる。

(2) そして、被告Kは、本件認可を取得する前提として、本件定款変更の認可を受ける必要があったと考えられるが、本件定款変更の認可の申請には、不動産登記簿謄本や建築確認書の添付が要求されているところ〔丙2の38頁〕、本件寄付により本件各児童遊園の敷地である本件山側公園土地及び本件海側公園土地が被告Kの所有となったからこそ、本件山側公園土地及び本件海側公園土地の不動産登記簿謄本を添付することができ、また、被告事業者らが本件建築に係る建築確認書を受けたからこそ、当該建築確認書を添付して本件定款変更の認可申請をすることができたということができる。
 このように、被告事業者らが本件建築及び本件寄付をしたからこそ、被告Kは本件認可を取得することができたという関係にあるということができる。

(3) したがって、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付と被告Kによる本件認可の取得とは、客観的に共同して、原告の営業上の不利益(原告が本件許可を受けることができず、そのために本件土地においてパチンコ遊技場の営業をすることができなかったことによる不利益)という一個不可分の損害を生ぜしめたと評価することができるから、両者の間には客観的関連共同性があるということができる(幾代通著「不法行為」215頁以下)。

(4) また、原告は売上高では道内トップであるところ〔浅野目証人一頁〕、被告Kは、被告事業者らから「道内資本の最大手が大規模出店のうわさがある」、「稚内では業者が適正営業の自主規制に取り組んで来たが、大規模出店があると射幸心をあおる営業展開となり地域環境にとって問題である」旨の記載がされた文書の提出を受け、これを理事会において説明したうえで、本件寄付を受ける旨の意思決定をし〔己木証人27頁以下〕、その上で本件認可の取得に及んでいることからすると〔争いのない事実等6及び9〕、被告Kは、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付が自己をして本件認可を取得させることにより、ひいては原告によるパチンコ遊技場の出店を阻止する意図に基づくものであることを知った上で、本件認可の取得に及んだと認めることができるから、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付と被告Kによる本件認可の取得との間には、主観的関連共同性があるということができる。

(5) よって、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付と被告Kによる本件認可の取得との間には、関連共同性がある。

2 争点2(被告事業者らの故意)について
(1)
ア 本件建築及び本件寄付は、原告が本件土地を買い受けた平成11年4月1日以降短期間のうちに行われており〔争いのない事実等3及び4〕、しかも本件定款変更や本件認可の取得に先立って行われていることや〔争いのない事実等5及び9〕、このように本件建築及び本件寄付を急いで行わなければならなかった事情について合理的な説明がないことからすると〔被告D代表者本人38頁〕、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付は、原告が本件許可を取得するより前に被告Kをして本件認可を取得させることにより、本件許可ひいては原告によるパチンコ遊技場の出店を阻止する意図に基づくものであったと推認することができる。

イ なお、被告事業者らは、本件建築及び本件寄付は、被告事業者らが構成する稚内遊技場組合の創立30周年記念事業の一環として行われたものであり、本件許可を阻止する意図に基づくものではない旨の主張をし、被告D代表者もこれに沿う陳述をする〔被告D代表者本人五頁以下〕。
 しかし、当該主張は、同人自身が、本件建築及び本件寄付は「商売上の防衛という意識」を伴うものであったことを自認する旨の陳述をしていることに照らし〔被告D代表者本人38頁〕、採用できない。

ウ また、己木証人は、本件建築及び本件寄付が本件定款変更や本件認可の取得に先立って行われている点について、定款変更認可申請の添付書類として建築確認書が要求されていることを指摘して〔丙2の38頁〕、本件建築が完成した後でなければ本件定款変更申請をすることができない制度になっている旨の証言をする〔己木証人19頁以下〕。

 しかし、当該証言は、同証人が、建築確認書は確認済証のようにこれに記載された建物の建築が完成したことを裏付ける書面ではなく、記載された建物を建築する計画がある旨の書面であるとの指摘に対し、所管行政庁からの行政指導によって検査済証の添付が要求されている旨証言を変更したところ〔己木証人20頁、41頁以下〕、所管行政庁に対する調査嘱託の結果、当該行政指導が行われていた事実を確認することができなかったことに照らし、信用できない。

 なお、被告Kは、当裁判所が当事者双方に対し当該行政指導の存否について所管行政庁に対する調査嘱託の申立てを促す措置をとったことを非難するところ、当該非難は、当該行政指導の事実の不存在を所与の前提とした上で、当該措置及び当該調査嘱託によって当該行政指導の事実の不存在が裏付けられ、己木証人の証言の信用性が覆されることになったとの思考に基づくものと考えられる(仮に当該行政指導が存在しており、かつ、被告Kがその旨の認識を有していたというのであれば、被告Kとしては、当該調査嘱託によりそのことが明確に裏付けられる関係にあるのだから、当該調査嘱託の申出をしてしかるべきはずであるところ、実際には、当該申出をすることなく、かえって前記非難に及んでいる。)。

 しかし、当該措置は、当該行政指導の不存在の事実を所与の前提とした上でされたものではなく、当該行政指導が存在していた可能性があることを前提とした上で(行政庁は、許認可に際し、先行している事実関係に対し後追い的に許認可をせざるを得ない場面もあるものの、基本的には事前の申請及び審査の励行を望むのが通常であると考えられる。己木証人の当該証言はこれと逆行する内容のものであるが、同証人が実績を有する社会福祉団体の常任理事であることに照らし〔己木証人一頁以下〕、児童福祉法の分野での認可申請においては実際にはそのような運用がされている可能性も十分にあると考えられた。)、己木証人の証言の信用性を判断する必要に基づいてされたものであるから、当該非難は、当を得ないものと考える。

(2) また、被告事業者らは、以下に述べるとおり、稚内市に新規のパチンコ遊技場の出店がされることを阻止するという目的のため、あらゆる手段を駆使していたことが窺われ、本件建築及び本件寄付も、そうした目的に基づく手段の一環であったと推認することができる。
ア 被告事業者らは、平成10年春ころ、名古屋の業者が本件海側公園土地にパチンコ遊技場を出店することを阻止するため、本件海側公園土地を取得した〔甲94、被告D代表者本人二頁〕。

イ 原告は、稚内市はまなす〈番地略〉の土地にパチンコ遊技場の出店を検討していたところ、被告事業者らは、同土地を先に取得して、これを阻止した〔甲83の1甲区二番、浅野目証人四頁〕。

ウ 原告は、本件許可の申請が不許可とされた後〔争いのない事実等10〕、本件土地の北側に隣接する市道(甲75の1の「道路敷地A」)の払下げを受けることにより、本件土地におけるパチンコ遊技場の出店を目指したが、被告事業者らのうちD株式会社及び株式会社Cは、同市はまなす〈番地略〉の土地を取得した上、これを東西に分筆して、当該市道にのみ隣接する同番四の土地を意図的に作出せしめることにより、当該市道の払下げを不可能ならしめている〔甲74の1甲区二番、三番、甲74の2甲区二番、浅野目証人26頁以下、被告D代表者本人31頁〕。

(3) そして、(1)で述べたところに(2)で述べたところを考え合わせると、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付は、原告が本件許可を取得するより前に被告Kをして本件認可を取得させることにより、本件許可ひいては原告によるパチンコ遊技場の出店を阻止する意図に基づくものであったということができる。

3 争点3(被告事業者らの違法性)について
(1) 「他人の営業活動を侵害することは、一般に保護法規違反ないし良俗違反とみられる程度のものであって、はじめて不法行為を構成する」ということができ、「営業上競争関係にある者相互間においては、自由競争として違法性の認められない範囲が特に広い。」が、「競争に用いられる手段・方法が明確に反社会性の強いものである」場合には、不法行為責任が成立すると解される(幾代通著「不法行為」78頁以下)。

(2) そして、原告と被告事業者らとはいずれも遊技場を経営する事業者であり〔争いのない事実等1及び2〕、営業上競争関係にあるということができるが(なお、被告Kについては、原告と競業関係にあるということはできないから、不法行為責任の成立要件としてこのような意味での違法性は要求されないと考えられる。)、被告事業者らが用いた手段・方法は、原告がひまわり稚内店の出店のため本件土地を取得した後に、本件建築及び本件寄付を行って、殊更に風俗営業許可の障害となる施設を作出せしめることにより、本件許可を阻止するというものであって、風俗営業法及び児童福祉法の規制を自らの営業上の利益という本来の目的とは異なる手段として利用したものというべく、このような行為は、自由競争秩序において予定されている範囲を逸脱していると評価することができる。

(3) したがって、本件建築及び本件寄付には、違法性がある。

(4) なお、被告事業者らは、本件認可が行政事件訴訟において適法と判断された旨の指摘をするが、行政処分という行政庁の行為の適法性の問題と、競業阻止という被告事業者らの行為の不法行為法上の適法性の問題
とは、対象たる行為及び主体を異にするから、前者が適法と判断されたことをもって後者が違法性を欠くとはいうことができない。

4 争点4(被告Kの故意)について
 被告Kは、1で述べたとおり、被告事業者らによる本件建築及び本件寄付が、自己をして本件認可を取得させることにより、本件許可ひいては原告によるパチンコ遊技場の出店を阻止する意図に基づくものであることを知った上で、かつ、それにより原告が本件許可を受けることができなくなり出店できなくなることを認識、認容した上で〔己木証人29頁〕、本件認可の取得に及んだものであるから、故意を有していたということができる。

5 争点5(原告が被った損害額)について
(1) 土地取得費について
 原告は、本件許可を受けることができなくなったことにより、本件土地の取得費、固定資産税・都市計画税負担分及び土地仲介手数料の計2億8451万5998円相当の損害を被ったということができる〔甲25ないし31〕。
 なお、原告は、本件土地を転売することにより、購入価格から実勢価格を控除した差額については回収が可能と考える余地もあるが、本件土地上にはパチンコ遊技場用の建物が中途まで建築済みであるところ、この建物を他の用途に転用することは困難であり〔浅野目証人31頁以下〕、転売のためには同建物を取り壊さざるを得ないと考えられ、取壊費用を支出してまで転売することに経済的合理性があることを認めるに足りる証拠がないから、当該差額を損害額から控除することはしない。

(2) 原告は、本件土地上にパチンコ遊技場用の建物の工事に着手しているところ〔争いのない事実等3〕、本件許可を受けることができなくなったことにより、建設本体工事費、設備工事費、外構工事費、省電設備費、看板工事費及び設計料として計3億2351万2988円相当の損害を被ったということができる〔甲32ないし49〕。
 そして、当該建物は、(1)で述べたとおり転用が困難と認められるから、全額を損害と評価することができる。

(3) 原告は、ひまわり稚内店の出店のための諸手続費用として計917万0164円の支出をしている事実が認められるところ〔甲50ないし55〕、本件許可を受けることができなくなったことにより、同額相当の損害を被ったということができる。

(4) 原告は、本件各児童遊園の設置がなければ、開店予定日である平成11年8月10日ころからパチンコ遊技場の営業が可能であったと考えることができるところ〔甲85〕、本件許可を受けられず営業ができなかったことによって、逸失利益の損害を被ったということができる。
 そして、当該逸失利益は、3億6094万2000円を下回らないと認めることができる〔甲57〕。

(5) そして、本件請求の認容額等に照らすと、本件請求を実現するための弁護士費用としては、2600万円が相当である。

(6) なお、原告は、本件各児童遊園の開園式が行われた後に〔争いのない事実等6〕、本件土地においてパチンコ遊技場用の建物の建築工事に着手しているところ〔争いのない事実等3〕、原告としては、本件認可がされることにより本件許可を受けられなくなる事態をも想定した上で工事の実施を延期することにより損害の拡大を防止することが可能であったと考えられなくもない。しかし、児童遊園は制度的に休眠状態にあることが窺われ、原告が、本件認可がされることはないと考えて工事の実施に及んだことには無理からぬ面があることと〔浅野目証人13頁以下、北海道保健福祉部児童家庭課長作成の調査嘱託回答書〕、2及び3において述べたとおり、被告らによる本件建築、本件寄付及び本件認可の取得という一連の行為が、原告による本件許可の取得ひいてはパチンコ遊技場の出店を阻止する意図に基づき、児童福祉法等の規制を自らの営業上の利益のために利用する態様のものであることとを対比すると、過失相殺をすることが相当とはいうことができない。
(裁判官・岩松浩之)

以上:5,842文字

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