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新規パチンコ店出店阻止目的寄付行為が違法とされた最高裁判決全文紹介

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平成28年 4月11日(月):初稿
○パチンコ業者らが風俗営業の許可に係る規制を利用して競業者において購入した出店予定地での営業許可を受けることができないようにする意図の下に近接する土地等を児童遊園として社会福祉法人に寄附した行為が不法行為を構成するとされた平成19年3月20日最高裁判決(判タ1239号108頁、判時1968号124頁)全文を紹介します。

○事案は,北海道のパチンコ業者であるXが,北海道A市内でのパチンコ店の出店を計画したものの,地元のパチンコ業者らが,地元の社会福祉法人と共謀し,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律による規制を利用してXの出店を妨害した旨主張して,地元パチンコ業者らや共謀した社会福祉法人に対し,共同不法行為に基づき,合計10億円余りの損害賠償を求めたものです。

○第一審平成14年12月19日札幌地裁判決(判タ1140号178頁)は,地元パチンコ業者らと社会福祉法人の共同不法行為の成立を認め,Xの請求を全部認容しましたが、第二審平成16年10月28日札幌高裁判決(公刊物未掲載)は、地元パチンコ業者らが本件寄附を申し入れた時点では,Xのパチンコ店の事業計画がいまだ確定されていなかったことなどを指摘し,それらの事情の下では,本件土地上で風俗営業を行う具体的計画が進行しているのに,本件事業者らが殊更それを阻止するために本件寄附をし,Xの営業の自由を侵害したものと評価することはできず,本件寄附には違法性がないとして請求を全部棄却し、Xが上告しました。

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主  文
原判決を破棄する。
本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理  由
 上告代理人○○○○、同○○○○、同○○○○の上告受理申立て理由第1点について
1 本件は、北海道稚内市内にパチンコ店の出店を計画していた上告人が、同市内のパチンコ業者である被上告人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6及び亡A(以下、これらの者を「被上告人事業者等」という。)並びに被上告人Y7(以下「被上告人Y7」という。)において、上告人の出店を阻止する目的で出店予定地の近くに児童遊園を設置するなどしたため、上告人の出店予定地におけるパチンコ店の営業につき風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。)3条1項の許可を受けることができなくなり、損害を被ったと主張して、被上告人ら(亡Aは、第1審係属中に死亡し、同人の相続人である被上告人Y8、同Y5、同Y9及び同Y10が、本件訴訟を承継した。)に対し、共同不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人は、北海道内において16店の遊技場を経営する株式会社である。
 被上告人事業者等は、いずれも稚内市内においてパチンコ店を経営していた者である。なお、被上告人事業者等は、稚内遊技場組合と称して活動することもあった。
 被上告人Y7は、稚内市内において福祉事業を営む社会福祉法人である。

(2) 法4条2項2号は、法3条1項の許可の申請に係る営業所が都道府県の条例で定める地域内にあるときは、その許可をしてはならない旨を定める。これを受けて、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和30年北海道条例第77号。以下「施行条例」という。)は、法4条2項2号にいう都道府県の条例で定める地域について、児童福祉法7条所定の児童福祉施設の敷地の周囲100mの区域内の地域と定める。

(3) 平成10年ころ、名古屋地区に本拠を有するパチンコ業者が稚内市内にパチンコ店を出店する計画を進めたことがあった。この計画は見送られることとなったが、被上告人事業者等は、このようなパチンコ業者の進出を阻止するために、同年5月、その出店予定地とされた土地を購入し、被上告人事業者等を共有名義人とする所有権移転登記を了した。また、被上告人事業者等は、同年9月、同様の目的で上記土地の近くにある別の土地も購入し、被上告人事業者等を共有名義人とする所有権移転登記を了した(以下、上記各土地を「本件事業者土地」という。)。

(4) 上告人は、平成11年3月中ごろ(以下、平成11年の日付については月日のみを記載する。)、稚内市内でのパチンコ店の出店を計画し、4月1日、その出店予定地(以下「本件土地」という。)につき、所有者との間で、代金を2億7000万円とする売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件土地は、本件事業者土地の周囲100mの区域内に位置する。

(5) 被上告人事業者等は、間もなく、本件売買契約締結の事実を知り、4月6日、被上告人Y7に対し、本件事業者土地を被上告人Y7に寄附する意向があることを伝え、その受入れを打診した。

(6) 上告人は、4月8日、本件土地につき、残代金を支払い、所有権移転登記を了した。

(7) 被上告人事業者等は、4月12日付けで、本件事業者土地のうち平成10年9月に購入された土地上に児童福祉施設等を建築することについて、これを依頼した建築業者の代表者に建築確認申請をさせ、4月20日、同申請に基づく建築確認がされた。また、被上告人事業者等は、同月13日付けで、本件事業者土地のうち平成10年5月に購入された土地上に公衆便所を建築することについて、上記代表者に建築確認申請をさせ、4月16日、同申請に基づく建築確認がされた。その後間もなく、上記各建築確認に基づく児童福祉施設等の建築が開始された。

(8) 被上告人事業者等は、5月5日までに、被上告人Y7に対し、児童福祉法7条所定の児童福祉施設に該当する児童遊園として、本件事業者土地、同土地上の上記(7)記載の建物及び遊具一式等を寄附すること(以下「本件寄附」という。)を申し入れた。これは、本件土地が施行条例の定める風俗営業の制限地域内に位置するようにすることで、法4条2項2号の規制を利用して、上告人が本件土地上でのパチンコ店の営業について法3条1項の許可を受けることができないようにすることを意図したものであった。

(9) 被上告人Y7は、5月13日、理事会を開催し、本件寄附の受入れを決定した。

(10) 被上告人事業者等は、5月14日、被上告人Y7に対し、本件寄附をし、被上告人Y7は、同月21日、本件事業者土地について、共有者全員持分全部移転登記を了し、同月27日、被上告人事業者等が本件事業者土地上に建築した児童福祉施設の建物等について、被上告人Y7名義の所有権保存登記を了した。

(11) 他方、上告人は、5月6日、本件土地上に建築を予定するパチンコ店(以下「本件パチンコ店」という。)の事業計画をまとめ、設計監理事務所との間で設計・工事監理業務委託契約を締結し、同月19日、本件パチンコ店の建築について建築確認申請をした。

(12) 被上告人Y7は、5月28日、北海道知事に対し、本件事業者土地上の児童遊園(以下「本件児童遊園」という。)の設置経営を定款の事業目的に追加する旨の定款変更について認可の申請をし、6月1日、その認可を受けた。

(13) 上告人は、6月1日付けで、建築業者との間で、本件パチンコ店の建築工事請負契約を締結し、また、同月8日、本件パチンコ店の建築について建築確認を受けた。

(14) 地元の新聞社は、6月3日、本件児童遊園の整備が完了し、同月6日に開園式を予定している旨を報じた。上告人は、同月4日、この報道により、本件児童遊園の設置計画を確定的に知ったものの、民間事業者である被上告人Y7に対する児童遊園の設置の認可はあり得ないとの独自の判断に基づき、同月8日ころ、本件パチンコ店の建築を開始した。

(15) 被上告人Y7は、6月7日、北海道知事に対し、本件児童遊園の設置について認可の申請をした。

(16) 上告人は、6月16日、北海道旭川方面公安委員会に対し、本件パチンコ店の営業について法3条1項の許可の申請をした。

(17) 北海道知事は、7月14日、被上告人Y7に対し、本件児童遊園について設置の認可をした。

(18) 北海道旭川方面公安委員会は、8月6日、上記(16)記載の許可申請について、本件パチンコ店の敷地の周囲100mの区域内に、児童福祉法7条所定の児童福祉施設が7月14日付けで認可されたことを理由として、不許可とした。

3 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却した。
 本件において、上告人は、被上告人事業者等が本件寄附を申し入れた時点では、本件パチンコ店の事業計画をいまだ確定しておらず、上告人が事業計画をまとめたのは上記申入れの後であった。そして、その後の被上告人事業者等による本件児童遊園に係る施設の建築及び本件寄附並びにこれに続く北海道知事による児童遊園設置認可の手続は、上告人による本件パチンコ店の建築及び北海道旭川方面公安委員会による法3条1項の許可の手続とは全く別個の独立した行為や手続であって、本件児童遊園の設置認可が本件パチンコ店の営業に対する法3条1項の許可よりも早く行われると推測できる事情や被上告人事業者等及び被上告人Y7において上記認可が上記許可より早く行われるように殊更画策したといった事情もない。

 他方、上告人は、6月4日には、本件児童遊園の設置計画を確定的に知り、本件児童遊園が設置の認可を受けたときには、本件パチンコ店の営業につき法3条1項の許可を受けることができないことを認識しながら、しかも、その時点ではいまだ本件パチンコ店の建築確認さえ受けていなかったにもかかわらず、同月8日に建築確認を受けた後、民間事業者である被上告人Y7に対する児童遊園の設置認可はあり得ないとの独自の判断に基づき建築を開始し、結果的に、その思わくが外れて、上記設置認可が先に行われたものであり、上告人は、本件パチンコ店の営業について法3条1項の許可を受けることができないという状況を自ら招来したものといわねばならない。

 これらの事情の下では、本件土地上で風俗営業を行う具体的計画が進行しているのに、被上告人事業者等が、殊更それを阻止するために、本件寄附をし、それにより上告人の営業の自由を侵害したものと評価することはできず、本件寄附には違法性がないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人の各請求は理由がない。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 被上告人Y7を除く被上告人らについて
 前記事実関係によれば、上告人が本件売買契約を締結した後、それを知った被上告人事業者等は、法4条2項2号による規制を利用して、上告人が本件土地上でのパチンコ店の営業について法3条1項の許可を受けることができないようにする意図の下に、本件寄附を申し入れ、被上告人Y7の承諾を得て、これを実行し、被上告人Y7が本件児童遊園の設置認可を受けた結果、上告人は、本件パチンコ店の営業について法3条1項の許可を受けることができなかったというのである。

 そうすると、本件寄附は、上告人の事業計画が、本件売買契約の締結により実行段階に入った時点で行われたものというべきであり、しかも、法4条2項2号の規制は、都道府県の条例で定める地域内において良好な風俗環境を保全しようとする趣旨で設けられたものであるところ、被上告人事業者等は、その趣旨とは関係のない自らの営業利益の確保のために、上記規制を利用し、競業者である上告人が本件パチンコ店を開業することを妨害したものというべきであるから、本件寄附は、許される自由競争の範囲を逸脱し、上告人の営業の自由を侵害するものとして、違法性を有し、不法行為を構成するものと解すべきである。

 原判決が本件寄附に違法性がない理由として掲げる諸事情も、上記の判断を左右するものではない。したがって、本件寄附に違法性がないことを理由として、上告人の被上告人Y7を除く被上告人らに対する請求を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

(2) 被上告人Y7について
 被上告人Y7は、上記のとおり被上告人事業者等について不法行為を成立させるような違法性を有する本件寄附を受け入れた上、本件児童遊園の設置認可の申請等を行って、上告人の本件パチンコ店の開業を妨げる結果を生じさせたものである。
 原審は、本件寄附に違法性がないことを理由として、被上告人Y7が行った本件寄附の受入れ等の行為にも違法性がないとし、上告人の被上告人Y7に対する請求を棄却すべきものとしたものであるが、上記のとおり、本件寄附は違法性を有するものと解すべきであるから、原審の上記判断にも、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そして、被上告人Y7を除く被上告人らとの関係では上告人の被った損害について、被上告人Y7との関係では上告人に対する不法行為の成否等について、更に審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 上田豊三 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)

 
以上:5,472文字

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