仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > 使用者・労働者 >    

退職金労働条件変更同意に関する平成28年2月19日最高裁判決全文紹介2

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
平成28年 4月 4日:初稿
○「退職金労働条件変更同意に関する平成28年2月19日最高裁判決全文紹介1」を続けます。

*********************************************

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
(1) 管理職上告人らは,本件退職金一覧表の提示を受けて,本件合併後に被上告人に残った場合の当面の退職金額とその計算方法を具体的に知ったものであり,本件同意書の内容を理解した上でこれに署名押印をしたのであるから,本件同意書への署名押印により本件基準変更に同意したものということができる。したがって,管理職上告人らについては,合意による本件基準変更の効力が生じている。
 また,上告人らの本件報告書への署名も上告人らの意思に基づくものである以上,上告人らは平成16年基準変更に同意したものということができる。したがって,上告人らについては,合意による平成16年基準変更の効力が生じている。

(2) 本件労働協約の締結については,本件職員組合の規約により執行委員長に包括的な代表権限が付与されている以上,大会又は執行委員会による決定等を経ていなかったとしても,そのことから直ちに,権限を有しない者によりされたものとはいえない。したがって,上告人らのうち本件職員組合の組合員であった者4名(上告人らのうち管理職上告人ら以外の者。以下「組合員上告人ら」という。)については,本件労働協約の締結による本件基準変更の効力が生じている。

4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件基準変更及び平成16年基準変更に係る合意について

ア 労働契約の内容である労働条件は,労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり,このことは,就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても,その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き,異なるものではないと解される(労働契約法8条,9条本文参照)。もっとも,使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても,労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており,自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば,当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく,当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。

 そうすると,就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和44年(オ)第1073号同48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁,最高裁昭和63年(オ)第4号平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁等参照)。


(ア) これを本件基準変更に対する管理職上告人らの同意の有無についてみると,本件基準変更は,A信用組合の経営破綻を回避するために行われた本件合併に際し,その職員に係る退職金の支給基準につき,旧規程の支給基準の一部を変更するものであり,管理職上告人らは,本件基準変更への同意が本件合併の実現のために必要である旨の説明を受けて,本件基準変更に同意する旨の記載のある本件同意書に署名押印をしたものである。そして,この署名押印に先立ち開催された職員説明会で各職員に配付された前記2(2)の同意書案には,被上告人の従前からの職員に係る支給基準と同一水準の退職金額を保障する旨が記載されていたのである。

 ところが,本件基準変更後の新規程の支給基準の内容は,退職金総額を従前の2分の1以下とする一方で,内枠方式については従前のとおりとして退職金総額から厚生年金給付額を控除し,更に企業年金還付額も控除するというものであって,前記2(8)のとおり,上告人らの退職時において平成16年合併前の在職期間に係る退職金として支給される退職金額が,その計算に自己都合退職の係数が用いられた結果,いずれも0円となったことに鑑みると,退職金額の計算に自己都合退職の係数が用いられる場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高いものであったということができ,また,内枠方式を採用していなかった被上告人の従前からの職員に係る支給基準との関係でも,上記の同意書案の記載と異なり,著しく均衡を欠くものであったということができる。

 上記のような本件基準変更による不利益の内容等及び本件同意書への署名押印に至った経緯等を踏まえると,管理職上告人らが本件基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていたというためには,同人らに対し,旧規程の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされるだけでは足りず,自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや,被上告人の従前からの職員に係る支給基準との関係でも上記の同意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど,本件基準変更により管理職上告人らに対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても,情報提供や説明がされる必要があったというべきである。

(イ) しかしながら,原審は,管理職上告人らが本件退職金一覧表の提示により本件合併後の当面の退職金額とその計算方法を知り,本件同意書の内容を理解した上でこれに署名押印をしたことをもって,本件基準変更に対する同人らの同意があったとしており,その判断に当たり,上記(ア)のような本件基準変更による不利益の内容等及び本件同意書への署名押印に至った経緯等について十分に考慮せず,その結果,その署名押印に先立つ同人らへの情報提供等に関しても,職員説明会で本件基準変更後の退職金額の計算方法の説明がされたことや,普通退職であることを前提として退職金の引当金額を記載した本件退職金一覧表の提示があったことなどを認定したにとどまり,上記(ア)のような点に関する情報提供や説明がされたか否かについての十分な認定,考慮をしていない。

(ウ) したがって,本件基準変更に対する管理職上告人らの同意の有無につき,上記(ア)のような事情に照らして,本件同意書への同人らの署名押印がその自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から審理を尽くすことなく,同人らが本件退職金一覧表の提示を受けていたことなどから直ちに,上記署名押印をもって同人らの同意があるものとした原審の判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法がある。

ウ また,平成16年基準変更に対する上告人らの同意の有無については,上告人らが本件報告書に署名をしたことにつき,上告人らに新規程が適用されることを前提として更にその退職金額の計算に自己都合退職の係数を用いることなどを内容とする平成16年基準変更に同意したものか否かが問題とされているところ,原審は,上記イと同様に,前記アのような観点から審理を尽くすことなく,直ちに上記署名をもって上告人らの同意があるものとしたのであるから,その判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法がある(なお,平成16年基準変更に際して就業規則の変更がされていないのであれば,平成16年基準変更に対する上告人らの同意の有無につき審理判断するまでもなく,平成19年法律第128号による改正前の労働基準法93条により,就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める合意として無効となるものと解される。)。

(2) 本件基準変更に係る労働協約の締結について
 本件労働協約は,本件職員組合の組合員に係る退職金の支給につき本件基準変更を定めたものであるところ,本件労働協約書に署名押印をした執行委員長の権限に関して,本件職員組合の規約には,同組合を代表しその業務を統括する権限を有する旨が定められているにすぎず,上記規約をもって上記執行委員長に本件労働協約を締結する権限を付与するものと解することはできないというべきである。そこで,上記執行委員長が本件労働協約を締結する権限を有していたというためには,本件職員組合の機関である大会又は執行委員会により上記の権限が付与されていたことが必要であると解されるが,原審は,このような権限の付与の有無について,何ら審理判断していない。したがって,上記の点について審理を尽くすことなく,上記規約の規定のみを理由に本件労働協約が権限を有しない者により締結されたものとはいえないとして,組合員上告人らにつき本件労働協約の締結による本件基準変更の効力が生じているとした原審の判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法がある。

5 以上のとおり,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記4において説示した点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸) 
以上:4,045文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > 使用者・労働者 > 退職金労働条件変更同意に関する平成28年2月19日最高裁判決全文紹介2