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目的建物焼失後も残存備付機械等に工場抵当権効力が及ぶとした判例紹介

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平成28年 2月26日(金):初稿
○滅多に問題となることがなく、また、解説文献も殆ど絶版状態で入手困難な工場抵当法に関する問題を抱えています。工場抵当法に関する公刊された判例も殆どありません。その数少ない工場抵当法に関する裁判例として、工場抵当の目的物たる建物が焼失した場合と残存する備付機械器具に対する抵当権の効力がなお及ぶとした昭和44年5月30日東京高裁決定(判タ239号240頁)全文を紹介します。

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主  文
 本件抗告を棄却する。

理  由
 抗告代理人の本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりである。
 抗告代理人の本件抗告理由の要旨は、「工場の所有者が工場に属する建物の上に抵当権を設定した結果、右工場に備付けられた機械器具その他工場の用に供する物件(以下供用物件という)に抵当権の効力が及んでいたところ右工場が火災により焼失した場合にはその工場の供用物件は工場との有機的一体性を失い工場抵当権の効力の及ばない動産となり、従来工場および供用物件についてなされた任意競売手続は許されず、競売開始決定は取消されるべきである。」というにある。

 本件記録ならびに原裁判所昭和35年(ケ)第117号建物競売事件の記録によると、相手方より抗告人に対し、本件工場ならびに供用物件について、工場抵当法第二条第三条による工場抵当権に基き競売の申立があり、原審は昭和35年8月26日右工場ならびに供用物件について競売開始決定をなし競売の手続が進行中昭和37年12月6日右工場は火災により焼失したことが認められる。

 ところで、工場抵当権を設定した結果工場抵当法第二条第二項によりその工場の供用物件にも工場抵当権の効力が及んでいる場合、右工場が火災にかかつたからといつて右抵当権の効力は当然に消滅するわけではなく、すくなくともその工場の供用物件が同一性を保つて現存し担保価値を有する限りはその供用物件の上に効力が及ぶものと解するのを相当とする。

 けだし工場抵当権の目的となる工場は、不動産たる建物、および、それに附加して一体となつた物、その建物に備付けられた機械器具等の供用物件たる動産が経済上相互に密接な関係を持ち、有機的に結合され全体として一個の価値を有するものであるから特にこれらについて財団を設定しない場合であつても工場の経済的作用を営ましめるため建物に対して設定された抵当権の効力はこれに付加備付けられ一体となつた機械器具等に及ぶとされるのであつて、建物が焼失した場合においてはこれら諸物件の経済的有機的な関係が解体するかの如くであるけれども、もし右建物及び供用物件に対し火災保険が付されていて、右火災保険金が支払われるときは保険者は火災による残存物の上にいわゆる物上代位により権利を取得し、他方抵当権の効力は火災保険金の上に代位して効力を有する(この場合には焼失残存物の上にはもはや抵当権の効力は及ばない筈であるが)ことから見ても、右建物焼失により前記抵当権が全くその効力を失うと解すべきではなく、もし右抵当物件に火災保険が付せられていないとき、もしくは保険金の支払を受けない場合は、焼失の残存物があるかぎり、右抵当権はその残存物の上に物上代位してその効力を及ぼすものといわなければならないからである。


 本件についてみるに記録によれば、本件建物ないし供用物件に火災保険が付されていたとか、保険金が支払われたような事情は認め難く、原決定目録(二)の27ないし45の物件を除く(これらは第三者が即時取得したことが明らかであるからこれを除く。)その余の供用物件は右罹災後一部は廃材として現存し、他の一部は修理が加えられて(修理が加えられたとしても第三者がその所有権を取得したことが認められる資料はなくまたこれらの物件のうち本件抵当権の効力が及ばなくなるような物件の存する特別の事情は窺えない。)現存することが認められる。
 それ故結局焼失した建物および右現存しない機械については本件抵当権は及ぶ由なきものであるから、これについての競売開始決定はこれを取消し相手方の競売申立を却下すべきであるがその余の機械(同目録1ないし26および46ないし51)についてはなお工場抵当権の物上代位的効力が及んでおるものであつて、本件競売開始決定に関する異議はこの限度で理由がないから却下を免れない。
 これと同旨に帰する原決定は相当であつて、抗告人の本件抗告は理由がないので棄却することとし主文のとおり決定する。
 (裁判官 川添利起 荒木大任 長利正己)

(別紙)
抗告の趣旨
 原決定中即時抗告人の異議申立を却下した部分を取消し、右部分につき原審裁判所が昭和35年8月26日なした不動産競売手続開始決定を取消し、相手方の競売申立を却下する。
 右旨の決定を求める。

抗告の理由
一、元来抵当権の目的物は不動産に限られ、動産は抵当不動産の付加物、従物のほかは、抵当不動産に備付けられていても、抵当権の効力は及ばない。これが原則である。

 ところが、工場に属する土地または建物の上に設定した工場抵当権は、右目的物に備付けた機械、器具に及ぶとされる。これは前記民法の原則に対する工場抵当法の例外である。工場抵当法が、単に工場に備付けたにすぎない動産(機械、器具)にまで抵当権が及ぶこととしたのは、工場という特殊性から、右備付物が土地建物と有機的一体性を有し工場として機能している点に着目したためにほかならない。

二、従つて、工場抵当の目的となつている建物が、例えば火災により滅失してしまつたため、もはや工場としての有機的一体性が失われてしまつた場合、機械器具はその工場に備付られた物という属性を失い、原則にかえり本来抵当権の目的となり得ない動産となるに至る。

三、工場抵当の目的とされた機械器具は所有者がこれを工場から搬出しても、なお抵当権の効力が及ぶとした工場抵当法第五条の規定は、工場の土地建物とそこに備付けられた機械、器具が有機的一体性を有する限り、抵当権者を保護するため設けられた規定であつて、工場たる不動産が滅失したためそこに備付けられた機械器具の有機的一体性が失われた場合にもなお妥当するものと解すべきではない。

四、本件は工場に属する建物と、そこに備付けられた機械器具とに工場抵当法の規定による工場抵当権を設定した後、火災により建物が滅失してしまい、機械器具は工場に備付けられたものとしての属性を失つてしまつたのであるから、工場抵当権は消滅に帰したと解すべきである。競売手続開始決定がなされたと否とにより、即ち抵当権が実行されたと否とにより、異るものではない。

五、従つて、競売手続開始決定がなされた後、工場たる建物が滅失した以上、該建物に備付けられていた機械器具は工場との有機的一体性を失い、工場抵当権の効力の及ばない動産となつたのであるから、もはや競売手続の続行は許されず、工場抵当権者であつた相手方がその債権の弁済を受けるには強制競売を申立てる外はないと解さなければならない。

六、事実相手方は火災直後機械器具を仮差押し、(即時抗告人は解放手続をとつた)工場抵当権が消滅したことを自ら承認したのである。
 抵当債権者が抵当物件と、同一債権に基いて仮差押することはナンセンスであるだけでなく、工場抵当法は許さない。


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