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弁護士法照会拒否回答で弁護士会に損害賠償義務を認めた判例紹介

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平成27年 7月31日(金):初稿
○「裁判所調査嘱託弁護士法照会拒否回答に違法がないとする判例紹介」の続きで、行方不明になった民事訴訟の被告の転居先を調べるため、弁護士法に基づき郵便局に転居先照会をしたのに拒否されたのは違法だとして、控訴人弁護士会らが被控訴人郵便事業株式会社訴訟承継人日本郵便株式会社に損害賠償を求めた訴訟につき、被控訴人が照会事項の全部について報告を拒絶したことは正当な理由を欠くものであり、被控訴人に過失があったものとして控訴人弁護士会の請求を一部認容した平成27年2月26日名古屋高裁判決(判時2256号11頁)の判決理由一部を紹介します。


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主  文
1 控訴人弁護士会の控訴について

(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人は,控訴人弁護士会に対し,1万円及びこれに対する平成23年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人弁護士会のその余の請求を棄却する。
2 控訴人X1の控訴について
 控訴人X1の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,控訴人弁護士会と被控訴人との関係では,第1,2審を通じて,これを30分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人弁護士会の負担とし,控訴人X1と被控訴人との関係では,控訴費用を控訴人X1の負担とする。


(中略)


第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人弁護士会の本訴請求については主文1項(2)の限度で理由があり,控訴人X1の本訴請求については理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

(中略)

4 争点(3)(控訴人らの権利,利益が侵害されたか)及び同(4)(控訴人らに損害が発生したか)について
(1) 控訴人X1について

 既に述べたとおり,23条照会については,基本的人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の使命の公共性がその基礎にあると解されるのであり,これを依頼者の私益を図るために設けられた制度とみるのは相当でない。そして,23条照会の申出があった場合,弁護士会は,その権限に基づいて,適切と判断した場合にのみ照会をするところ,依頼者は,弁護士会に対し,23条照会をすることを求める実体法上の権利を持つものではないと解される。そうすると,23条照会に対する報告がされることによって依頼者が受ける利益については,その制度が適正に運用された結果もたらされる事実上の利益にすぎないというべきである。また,本件拒絶について,控訴人X1の権利,利益等を害する目的でされたとは認められないから,侵害行為の態様(違法性の程度)との関係からみても控訴人X1の権利ないし法的保護に値する利益が侵害されたということはできない。控訴人X1は,●●●に対する動産執行を実現する法的利益が害されたと主張するが,仮に控訴人X1にそのような利益があるとしても,本件拒絶によりそれが害されたとは認められない。控訴人X1の主張は,採用することができない。

(2) 控訴人弁護士会について
ア 権利,利益の侵害について
 23条照会の制度は,弁護士法1条1項に規定された弁護士の使命の公共性にかんがみ,昭和26年6月9日に弁護士法23条の2として規定され,60年以上にわたり利用されてきた制度である。23条照会について強制力はないとしても,報告義務があると解されることは,既に述べたとおりである。そして,23条照会をする権限については,その制度の適正な運用を確保するため弁護士会にのみ与えられている。弁護士会は,23条照会について個々の弁護士からの申出がその制度趣旨に照らして適切であるかについて自律的に判断した上で照会の権限を行使するものである。控訴人弁護士会を含む各弁護士会は,自らの権限を適切に行使するため,23条照会に関し,規則や負担金規程を設ける(甲16,28,31),手引を作成する(甲29,46,乙12の2),控訴人弁護士会など照会件数が多い弁護士会においては調査室等を置く(甲30,58)などの措置を講じ,照会の必要性,相当性,範囲,表現等について複数の弁護士による審査をしている(甲58)。

 その上部団体である日本弁護士連合会も,規則のモデル案(甲17,27)やマニュアル(乙12の1)を作成しているほか,裁判所の真実の発見と公正な判断に寄与することが重要であるとして,23条照会の制度の機能が拡充,強化されるよう活動しているところである(甲32,33)。このように,法律上23条照会の権限を与えられた弁護士会が,その制度の適切な運用に向けて現実に力を注ぎ,国民の権利の実現という公益を図ってきたことからすれば,弁護士会が自ら照会をするのが適切であると判断した事項について,照会が実効性を持つ利益(報告義務が履行される利益)については法的保護に値する利益であるというべきである。

 被控訴人は,23条照会について,弁護士会には独自に保護されるべき利益がない旨主張する。しかし,弁護士会は,弁護士法31条1項に規定されているように,弁護士及び弁護士法人の品位を保持し,その事務の改善進歩を図るという固有の目的の下,自らの事務を行うものである。また,弁護士会は,法人であるから(同条2項),その会員である弁護士とは別個に,独自の人格的な利益も観念することができる。そして,前記(1)のとおり,23条照会は,依頼者の私益を図るために設けられた制度ではなく,弁護士の職務の公共性に基礎を置くものである。弁護士会は,弁護士に依頼することで権利が実現できるという弁護士全般に対する国民の信頼を維持するため,その自治団体として活動しているといえる。

 そうであれば,弁護士会には,23条照会が実効性を有することについて,申出をした弁護士とは別個の独自の利益があるというべきである。また,23条照会に対し報告がされることにより,その申出をした弁護士が利益を受けることがあるとしても,その制度の適正な運用という公益が実現されたことによる事実上の利益にすぎないことは,前記(1)で控訴人X1について述べたところと同様である。したがって,弁護士会に独自の利益を認めたからといって,個々の弁護士に対し直接自己に報告を求めることができる地位を与えることにはならない。被控訴人は,報告された内容が希望するものでなかった場合との比較をいうが,23条照会をする弁護士会が,特定の内容の報告を希望しているとは認められないから,そのような比較をすることはできない。被控訴人の主張は,いずれも採用することができない。

イ 損害について
(ア) 財産的損害
 控訴人弁護士会は,本件通知書を送付するための費用について,本件拒絶による損害である旨主張する。しかし,本件通知書は,控訴人弁護士会が,本件拒絶について翻意を求めるために,自らの判断で送付したものである。本件規則7条2項は,報告が拒絶された場合,照会の趣旨を説明し,報告するよう説得することができる旨定めているにすぎないし,その手段についても,必ずしも文書の送付には限定されておらず,電話や面談等によることも予定されている。したがって,本件通知書を送付するための費用について,控訴人弁護士会において支出を余儀なくされたものと評価することはできず,本件拒絶と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

(イ) 無形損害
 控訴人弁護士会は,本件拒絶により,a 23条照会に係る適正な権限行使を阻害され,b その制度を適正に運用することができず,国民の信頼を失い,c 本件拒絶に対処する労力を負担することを強いられ,d 本件訴訟を提起し,遂行する労力を負担することを強いられた旨主張する。
 しかるところ,控訴人弁護士会は,本件拒絶により,本件照会が実効性を持つ(報告義務が履行される)という法的保護に値する利益を侵害され,国民の権利を実現するという目的を十分に果たせなかったのであるから,これによる無形損害を被ったと認められる。他方,控訴人弁護士会が,本件拒絶により現実に国民の信頼を失ったとは認められない。また,本件拒絶に対処するため各種措置を講じることについては,公益目的のため23条照会の制度の適正な運用を図るべき立場にある控訴人弁護士会において,通常の業務に含まれるというべきであり(甲30),その労力を負担したことをもって,本件拒絶による損害と認めることはできない。

 次に,損害の程度について検討すると,控訴人弁護士会の無形損害は,本判決において,本件拒絶について,正当な理由がなく,被控訴人の不法行為を構成すると判断されることにより,相当程度回復されるものと考えられる。そして,この点を含め本件における一切の事情を考慮すれば,控訴人弁護士会の損害については,1万円と認めるのが相当である。

(ウ) 当審における弁護士費用
 前記(イ)のとおり,本件拒絶に対処することは,控訴人弁護士会にとって通常の業務の一環というべきである。また,その業務に当たることとなっている控訴人弁護士会の調査室の室員は,弁護士経験5年以上を有する10名以内の弁護士であるところ(甲30),当審において,控訴人弁護士会の訴訟代理人として法廷に出頭した弁護士のほとんどは,上記の調査室の室員である(甲48,49,当裁判所に顕著な事実)。そうすると,控訴人弁護士会において,控訴を提起するに当たり,弁護士に委任することを余儀なくされたとはいい難い。当審における弁護士費用について,本件拒絶による損害と認めることはできない。

5 本件確認請求について
 本判決は,控訴人弁護士会の主位的請求について,全部認容するものではないが,本件確認請求については,主位的請求である損害賠償請求が全部棄却である場合の予備的請求であることが明らかである。したがって,控訴人弁護士会の主位的請求を一部認容する本判決において,本件確認請求について判断する必要はないものである。

6 まとめ
 以上のとおりであるから,控訴人X1の本訴請求は理由がなく,控訴人弁護士会の本訴請求は,1万円及びこれに対する本件拒絶を受けた日である平成23年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

第4 結論
 よって,原判決は,一部失当であって,控訴人弁護士会の本件控訴の一部は理由があるから,原判決中,控訴人弁護士会に係る部分を上記のとおり変更し,仮執行宣言の申立てについては,その必要がないものと認められるから,これを付さないこととし,控訴人X1の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 木下秀樹 裁判官 達野ゆき 裁判官 舟橋伸行)
以上:4,448文字

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