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パワハラと自殺の因果関係を認めた福井地裁の画期的判例紹介1

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平成27年 4月23日:初稿
○「高浜原発3・4号機再稼働差し止め福井地裁仮処分決定理由全文紹介1」で福井地方裁判所樋口英明裁判官の部での果敢な判断を紹介しましたが、同裁判官の果敢さを示すパワハラと自殺との因果関係を認め、自殺によって生じた損害について、素因減額等することなく全て認めた判決を紹介します。

○自殺についての損害賠償請求で約1億1121万円の請求について約7261万円を認定するのは、ほぼ完全勝利と言って良いと思われます。会社側は控訴していますが、原告である自殺した青年の父親も、上司の1人に対する請求が棄却されたことを不満として控訴し、その結果について福井新聞平成27年4月13日付の以下の記事を掲載しています。

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パワハラ自殺訴訟、和解を「検討」 名古屋高裁金沢支部の勧告で双方
(2015年4月13日午後5時00分)

 消火器販売などの「暁産業」(福井市)に勤めていた男性社員=当時(19)=が自殺したのは上司のパワーハラスメント(パワハラ)が原因として、男性の父親が会社と当時の上司2人に対し損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が13日、名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)であった。
 双方が控訴理由書など書面を提出し、この日で弁論は終結した。父親側と同社側の弁護人によると、弁論後、裁判所から和解勧告があったといい、双方は「検討する」とした。和解期日は6月1日。

 一審の福井地裁は昨年11月、男性が手帳に記載していた上司の発言内容を根拠に「典型的なパワハラ」として、同社と直属の上司に対し約7200万円の支払いを命じた。管理職の上司への請求は棄却した。
 同社側は控訴理由書で、手帳の記載内容には明らかに上司の発言ではないと推測できるものがあると主張。パワハラと認定された発言は指導の範囲を超えておらず、自殺との因果関係も否定されるとした。
 父親側も控訴し、棄却された管理職の上司の責任や、損害賠償額について争うとした。


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主  文
1 被告a株式会社及び被告bは,原告に対し,連帯して7261万2557円及びこれに対する平成22年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告a株式会社及び被告bに対するその余の各請求並びに被告cに対する請求をいずれも棄却する。
3 原告に生じた訴訟費用のうちその10分の3及び被告cに生じた訴訟費用を原告の負担とし,原告に生じた訴訟費用のうちその10分の7並びに被告a株式会社及び被告bに生じた訴訟費用を同被告らの負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して1億1121万8429円及びこれに対する平成22年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 原告は,亡dの父であり,dは被告a株式会社(以下「被告会社」という。)に勤務し,被告b及び被告cはdの上司であった。
 本件は,dが自殺したのは,被告b及び被告cのパワーハラスメント,被告会社による加重な心理的負担を強いる業務体制等によるものであるとして,原告が被告らに対し,被告b及び被告cに対しては不法行為責任,被告会社に対して主位的には不法行為責任,予備的には債務不履行責任に基づき,損害金1億1121万8429円及びこれに対するdが死亡した日である平成22年12月6日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実
 以下の事実は当事者間に争いのない事実又は括弧内に摘示する証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
(1) 原告は,d(平成3年8月29日生)の父であり,eはdの母である(甲1)。
(2) 被告会社は,消火器販売,消防設備の設計施工保守点検等を業とする資本金1000万円の株式会社である(争いがない)。
(3) dは,平成22年2月10日から被告会社でアルバイト勤務を始め,f高校を卒業後の同年4月1日,被告会社との間で,正社員として労働契約を締結した(争いがない)。
(4) dは,被告会社のメンテナンス部に配属され,各企業が事務所及び作業所・工場等に消防法によって設置した防火施設の消防法によるメンテナンス等について,被告会社がそのメンテナンスを引き受けている事業所の消防設備や消火器等の保守点検業務に従事していた(争いがない)。
(5) 被告bは,リーダーとしてdの上司に当たる者であり,被告cは,メンテナンス部部長としてdの上司に当たる者である(争いがない)。
(6) dは,平成22年12月6日,自宅の自室において午前6時30分ころ,縊死した(以下「本件自殺」という。)(争いがない)。
(7) 原告及びeは,dを原告が単独相続する旨の遺産分割協議を成立させた(甲28)。
(8) 原告は,平成25年5月29日に遺族補償金366万0605円の支給を受けた(甲70)。

3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告bによる不法行為の有無(嫌がらせ,いじめ,暴行の有無)

 (原告の主張)
ア dは,上司である被告bにより,通常の指導の域を遥かに超えたいじめ等いわゆるパワーハラスメントを繰り返し受けてきた。被告bは,「なんで嘘をつく」等の叱責の言葉ばかりか,「辞めればいい,死んでしまえばいい,もう直らないならこの世から消えてしまえ」等のdの人格を否定する暴言を執拗に繰り返した。

イ 被告bは,dに対し,暴行を振るっていた。

(被告らの主張)
ア 被告bが,dに対し,通常の指導の域を遥かに超えたいじめ等いわゆるパワーハラスメントをしていたこと,暴行を振るっていたことは否認する。

イ 被告bのdに対する注意,指導又は叱責は,dの繰り返しなされる同じ作業ミスに対して行ったことであって,「いじめ」ないし「パワハラ」と評価される性格のものではない。被告bのdに対する業務上の注意,指導又は叱責は,消防設備の委託事務所内で,dの作業ミスを具体的に指摘して行ったもので,長々と執拗に行ったわけではない。

(2) 被告cによる不法行為の有無(長時間労働,パワーハラスメントの放置,情報収集懈怠)
 (原告の主張)
ア 被告cは,メンテナンスサービス部の部長として,自らの責任と判断で部内の労働者の人員や配置を決めていたのであるから,被告会社に代わってdに対して業務上の指揮監督を行う権限を有する者として被告会社の後記(3)の注意義務を行使すべき義務を負っていた。

イ 被告cは,dの恒常的長時間労働を放置したまま何らの軽減措置を講じなかった点で過失があり,また,被告bによるdへのパワーハラスメントを容易に認識できたにもかかわらず,自らの責任で被告bとdを多く組む人員配置を続けたのであるからこの点でも過失が認められる。

ウ dが平成22年10月6日ころ被告cに対し退職の申し出をしたのに対し,被告cは,これを拒否しただけでなく,被告bと同様に厳しく叱責し暴言を吐いた。

エ 被告cは,メンテナンス部長として部下の心身への配慮を行うだけでなく,部下の心身の状況や心身の安全に対する危険な要因について,必要な対策を行わなければならない。被告cがdや被告bから事情を聴取したり医師の診察を受けさせる等の積極的な実態把握に努めれば被告bのdに対するパワーハラスメント,dの心身の状況が悪化していたことを認識し,必要な対策を講じることができたはずであるのにこれを怠った点で過失がある。

(被告らの主張)
 原告の主張は否認又は争う。

(3) 被告会社による安全配慮義務違反の有無(長時間労働,達成困難なノルマの設定,労働者の個性・人格無視の管理主義的な社内教育)
(原告の主張)
ア 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険がある。労働基準法は,労働時間に関する制限を定め,労働安全衛生法65条の3は,作業の内容等を特に限定することなく,同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが,それは,このような危険が発生するのを防止することをも目的とするものである。これらのことからすれば,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う。被告会社は,この義務に違反して,次のイないしエの負担をdに課していた。

イ dは,毎日遅くとも午前7時前には自宅を出て車で15分の距離にあるg所在のサービスセンターに出勤し,その後現場を回って本社へ夕方に戻り,報告書を作成・提出した後,サービスセンターに戻り反省会等を終えて,午後9時から10時,遅いときは午後11時過ぎに帰宅していたもので,サービス残業が恒常化し,本件自殺前,dは恒常的に長時間労働を強いられていた。

ウ dは,年賀状を2100枚,消火器を40台販売するノルマを課されていたが,新入社員であるdにとって,そのようなことは不可能であることを承知の上で,被告会社はかようなノルマを課していた。

エ 被告会社では,被告会社代表者の独特の興味関心思想宗教世界観に基づいて,労働者に対し,研修教育の名の下で,それを強制させ押しつける内容の教育を行ってきた。たとえば,dは,入社に当たって事前にプロの麻雀師の書籍を読むよう命じられたり,六波羅蜜等特定の宗教観を押しつけられる等されていた。

(被告らの主張)
ア dが出勤のために午前7時前に自宅を出て,車で15分の距離にある被告会社のg内のサービスセンターに出勤していたこと及び午後9時から10時,遅いときは午後11時まで勤務していたこと並びにサービス残業が恒常化していたことは否認する。被告会社が,恒常的な長時間労働をさせたことはない。

イ 被告会社がdに年賀状2100枚の販売をさせたことは認めるが,それがノルマであること及び達成困難であることは否認する。年賀状2100枚の販売は,被告会社が社員全員に求めていることではあるが,強制もなく,販売が達成されなくてもなんらの制裁も不利益もなかったのでノルマではない。

ウ 被告会社の代表者は,自分の思想・宗教・世界観を社員に強制したり,そのような社内研修をしたことはない。

(4) (1)ないし(3)の各事実と本件自殺との間の相当因果関係の有無
 (原告の主張)
ア dはただでさえ新入社員として緊張や不安が多く,心理的負荷がかかっている中で,恒常的長時間労働に従事させられ続けた。また,dはベテランの社員でさえ達成困難であろう年賀状販売2100枚,消火器販売40台というノルマを課せられ,さらに,日常的に労働者の個性・人格無視の管理主義的社内教育を受け続けさせられた。

イ dは,注意を受けた内容のメモを作成するように命じられ,誠実にミスをなくそうと努力し,新入社員として初めて受けた消防整備士乙種第6種の資格を取得する等して,恒常的長時間労働に従事していたにもかかわらず,ねぎらいの言葉を受けたり,心配されるどころか,被告bから人格を否定する言動によるいじめを執拗に繰り返し受け続けてきた上,被告bから暴力を振るわれていたことも推認される。

ウ dは,高卒の新入社員であり,その心理的負荷は他の労働者と比較しても過度にかかることになるから,上記の心理的負荷をより強度なものとする要因になっていた。このような心理的負荷の内容や程度に照らせば,dの業務には精神障害を発症させるに足りる強い負担があったと認められる。そして,dがロープを購入し,遺書を作成したと思われる平成22年11月29日には中等症うつ病エピソードを発症していたと推定される。

エ dは,遅くとも平成22年11月29日にはうつ病を発症していたと推定され,正常な認識,行為選択能力及び抑制力が著しく阻害された状態になり,本件自殺に至ったもので,本件自殺について業務起因性が認められる。被告bのいじめとの間の相当因果関係が認められる。

オ dには,業務以外の心理的負荷を伴う出来事は確認されていないし,既往症,生活史,アルコール依存症などいずれにおいても特に問題はないし,性格傾向も真面目で几帳面であり,特に問題となる特性はない。

 被告らは,dが閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群に罹患していた等として業務との因果関係を否定するが,その根拠とされるh医師の意見書も,h医師自らが,「正確な医学的検査をしていない。さらにdと直接会ったわけでもなく,また具体的に働いている現場を見ているわけではないので,推測でしかない。」と認めるように,医学的根拠はない。

(被告らの主張)
ア dの生活状況,ことに就寝時間,睡眠時間,dが勤務中であっても居眠りを始めるとか,帰宅してすぐに食事もしないでソファーでごろ寝をするとか,作業現場まで作業車に同乗していくときに車内で居眠りをする,就寝時間が翌日の午前1時ころであったこと,多汗症であったこと等,dには,睡眠障害があったと認められる幾多の顕著な徴候が認められる。dは閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群と推論でき,平成22年9月ころにはうつ病と診断できるまでになっていた。dは,パワーハラスメントで自殺したというより,自分の能力に悲観して亡くなったものである。

イ dは,「生きることに疲れてしまいました」という遺書を残しているのであるから,生きることに疲れる原因があったのであり,その原因は,被告bの作業上の注意や,ありもしない加重な長時間労働,年賀葉書2100枚の販売,被告会社の研修等の被告会社の業務によるものではなく,dの睡眠障害にあった。

ウ よって,dのうつ病の発症,それによる自殺と被告会社の業務,被告b,被告cのdに対する注意との因果関係はない。

(5) 損害額
(原告の主張)
ア 逸失利益  7121万8429円
 計算式
 523万0200円(平成22年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男性平均賃金)×8.5901(11年に対応する新ホフマン係数)×(1-0.5)=2246万3970円
 523万0200円×15.5362(12年から48年の新ホフマン係数)×(1-0.4)=4875万4459円
 2246万3970円+4875万4459円=7121万8429円

イ 死亡慰謝料 3000万円

ウ 弁護士費用 1000万円

エ 原告が平成25年5月29日に支給された遺族補償金366万0605円は,平成22年12月6日から平成25年5月29日までに発生した逸失利益の遅延損害金の一部に充当すべきであり,損害金元金に充当されることはない。

(被告らの主張)
 原告の損害額の主張は争う。
以上:6,151文字

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