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高浜原発3・4号機再稼働差し止め福井地裁仮処分決定理由全文紹介1

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平成27年 4月22日:初稿
○福島原発事故の余りに悲惨な現実と放射性廃棄物(使用済み核燃料)処理問題の困難さから原発再稼働には疑問を感じています。
 高浜原発から半径250キロメートル圏内に居住する債権者らが、人格権の妨害予防請求権に基づいて高浜原発3・4号機の運転差止めを求めた仮処分請求について、高浜原発の安全施設、安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといわざるを得ず、原子炉の運転差止めは具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段であり、原発事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じ、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、原子力規制委員会による再稼働申請の許可がなされた現時点においては、保全の必要性はこれを肯定できるとして、運転差止めを認容した平成27年4月14日福井地裁決定理由全文を3回に分けて紹介します。

原発再稼働に疑問は感じるもこの問題をシッカリ勉強したことはないため確固たる見解もありません。この決定理由を読んで少しは勉強してみます(^^;)。

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第4 当裁判所の判断
1 原子力発電所の特性

 原子力発電において発出されるエネルギーは膨大であり,また発電所内部に貯留されている放射性物質も極めて多量である。そのため,運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず,その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり,いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ。このことは,他の技術の多くが運転の停止によって,その被害の拡大の要因の多くが除去され,たとえ爆発を伴う事故であっても短時間のうちに収束の方向に向かうのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である。

 したがって,施設の損傷に結びつき得る地震が起きた場合,速やかに運転を停止し,運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け,万が一に異常が発生したときも放射性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのないようにしなければならず,この止める,冷やす,閉じ込めるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなる。

 仮に,止めることに失敗するとわずかな地震による損傷や故障でも破滅的な事故を招く可能性がある。地震及び津波の際の炉心損傷を招く危険のある事象についての複数のイベントツリーのすべてにおいて,止めることに失敗すると炉心損傷に至ることが必然であり,とるべき有効な手だてがないことが示されている。

 福島原発事故では,止めることには成功したが,冷やすことができなかったために放射性物質が外部に放出されることになった。また,我が国においては核燃料は,①核燃料を含む燃料ペレット,②燃料被覆管,③原子炉圧力容器,④原子炉格納容器,⑤原子炉建屋という五重の壁に閉じ込められているという構造によって初めてその安全性が担保されているとされ,その中でも重要な壁が堅固な構造を持つ原子炉格納容器であるとされている。

 しかるに,本件原発には地震の際の冷やすという機能と閉じ込めるという構造に次のような問題がある。

2 冷却機能の維持について
 本件原発の原子炉の地震の際のクリフエッジは,ストレステスト実施当時の基準地震動Ss550ガルの1.77倍である973.5ガルとされた(前提事実(6))。その後,新規制基準審査において,基準地震動は550ガルから700ガルに引き上げられたが,上記クリフエッジの数値973.5ガルはこの基準地震動の引き上げに応じて変わることはないと認められる。そこで,クリフエッジである973.5ガル及び基準地震動である700ガルを目安として,地震が高浜原発に到来した際に本件原発の冷却機能が維持できるか否かについて以下検討する。

(1) クリフエッジである973.5ガルを超える地震について
 上述のとおり,原子力発電所は地震による緊急停止後の冷却機能について外部からの交流電流によって水を循環させるという基本的なシステムをとっている。973.5ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し,非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり,メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは債務者において自認しているところである。

 すなわち,本件ストレステストに関し債務者の作成した甲118号証の47頁には「耐震裕度が1.77Ss(973.5ガル)以上または許容津波高さが10.8m以上の領域では,炉心にある燃料の重大な損傷を回避する手段がなくなるため,その境界線がクリフエッジとして特定された。」,大飯原発差止訴訟における債務者の準備書面(9)17頁には「クリフエッジとは,プラントの状況が急変する地震,津波等のストレス(負荷)のレベルのことをいう。地震を例にとると,想定する地震動の大きさを徐々に上げていったときに,それを超えると,安全上重要な設備に損傷が生じるものがあり,その結果,燃料の重大な損傷に至る可能性が生じる地震動のレベルのことをいう。」との各記述があり,これは債務者が上記自認をしていることにほかならない。なお,当裁判所は債務者の主張する1.77Ssという数値をそのまま採用しているものでないことは,(2)オにおいて説示するところであるが,本項では債務者の主張を前提とする。

 しかるに,我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。地震は地下深くで起こる現象であるから,その発生の機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって,仮説の立論や検証も実験という手法がとれない以上過去のデータに頼らざるを得ない。確かに地震は太古の昔から存在し,繰り返し発生している現象ではあるがその発生頻度は必ずしも高いものではない上に,正確な記録は近時のものに限られることからすると,頼るべき過去のデータは極めて限られたものにならざるをえない。

 証拠によれば,原子力規制委員会においても,別紙4の表-1の16個の地震を参考にして今後起こるであろう震源を特定せず策定する地震動(別紙3の別記2の第4条5三参照)の規模を推定しようとしていることが認められる。この数の少なさ自体が地震学における頼るべき資料の少なさを如実に示すものといえる。

 したがって,高浜原発には973.5ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。むしろ,①我が国において記録された既往最大の震度は岩手・宮城内陸地震における4022ガルであり(争いがない),973.5ガルという数値はこれをはるかに下回るものであること,②岩手・宮城内陸地震は高浜でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震(別紙3の別記2の第4条5二参照)であること,③この地震が起きた東北地方と高浜原発の位置する北陸地方ないし隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度において有意的な違いは認められず,若狭地方の既知の活断層に限っても陸海を問わず多数存在すること(前提事実(2)イ,別紙1参照),④この既往最大という概念自体が,有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎないことからすると,973.5ガルを超える地震が高浜原発に到来する危険がある。

 債務者は,岩手・宮城内陸地震で観測された数値が地震動を拡大させる要因がある観測地点の特性によるものである旨主張しているが,新潟県中越沖地震では岩盤に建っているはずの柏崎刈羽原発1号機の解放基盤表面(固い岩盤が,一定の広がりをもって,その上部に地盤や建物がなくむき出しになっている状態のものとして仮想的に設定された表面,別紙3の別記2の第4条5一参照)において最大加速度が1699ガルと推定されていることからすると,債務者の主張どおり4022ガルを観測した地点の地盤に震動を伝えやすい要因があったと仮定しても,上記認定を左右できるものではない。

 973.5ガルを超える地震が高浜原発に到来した場合には,冷却機能が喪失し,炉心損傷を経てメルトダウンが発生する危険性が極めて高く,メルトダウンに至った後は圧力上昇による原子炉格納容器の破損,水素爆発あるいは最悪の場合には原子炉格納容器を破壊するほどの水蒸気爆発の危険が高まり,これらの場合には大量の放射性物質が施設外に拡散し,周辺住民が被ばくし,又は被ばくを避けるために長期間の避難を要することは確実である。

 債務者は,岩手・宮城内陸地震のみならず新潟県中越沖地震についても柏崎刈羽原発の敷地に地震動を拡大させる特殊な要因があったが,本件原発の敷地にはこの要因はないので,両者を同列に論じることは地域差や地域の特性を無視することになると主張している。しかし,上記各地震でそうであったように地震動を拡大させる要因の多くは地震が起きてみて初めて判明する要因である。本件原発において地震動を拡大させる他の特殊な要因があるかないかは予測できないはずである。

 また,地震調査研究推進本部地震調査委員会が平成23年1月にまとめた長期予測では福島第一原発の付近で震度6以上の地震が今後30年間に起こる確率は0.0パーセントとされていた。岩手・宮城内陸地震,新潟県中越沖地震,東北地方太平洋沖地震を含む多くの地震が,地域の特性を反映して地域毎に地震の想定をすることが極めて困難であることを繰り返し教えてくれている。日本の他の地域で起きた地震は,その確率に差があることは否定できないとしても,当該地域でも同様に起こり得るものであるといえる。

 他方,債務者は,当該原発敷地に過去に到来した地震と既に判明している要因だけを考慮の対象とし,ほぼ確実に想定できる事象に絞って対処することが,危険性を厳密に評価するものであって,そうすることが科学的であるとの発想に立っている。その結果,債務者は他の原発で実際に発生した地震についてさえ,これを軽視するという不合理な主張を繰り返している。

(2) 基準地震動である700ガルを超えるが973.5ガルに至らない地震について
ア 債務者の主張するイベントツリーについて

 仮に,高浜原発に起きる危険性のある地震が基準地震動Ssの700ガルをやや上回るものであり,クリフエッジである973.5ガルに達しないと仮定しても,このような地震が炉心損傷に結びつく原因事実になることも債務者の自認するところである。これらの事態に対し,有効な手段を打てば,炉心損傷には至らないと債務者は主張するが,次にみるようにその根拠は乏しい。

 債務者は,当時の基準地震動である550ガルを超える地震が到来した場合の事象を想定し,それに応じた対応策があると主張し,これらの事象と対策を記載したイベントツリーを策定し,3.85メートルを超える津波が到来したときの対応についても類似のイベントツリーを策定している(前記前提事実(6))。債務者は,これらに記載された対策を順次とっていけば,973.5ガルを超える地震が来ない限り,津波の場合には10.8メートルを超えるものでない限りは,炉心損傷には至らず,大事故に至ることはないと主張する。

 しかし,これらのイベントツリー記載の対策が真に有効な対策であるためには,第1に地震や津波のもたらす事故原因につながる事象を余すことなくとりあげること,第2にこれらの事象に対して技術的に有効な対策を講じること,第3にこれらの技術的に有効な対策を地震や津波の際に実施できるという3つがそろわなければならない。

イ イベントツリー記載の事象について
 深刻な事故においては発生した事象が新たな事象を招いたり,事象が重なって起きたりするものであるから,第1の事故原因につながる事象のすべてを取り上げること自体が極めて困難であるといえる。債務者がイベントツリーにおいて事故原因につながる事象のすべてをとりあげているとは認め難い。

ウ イベントツリー記載の対策の実効性について
 イベントツリー記載の対策が技術的に有効な対策であるかどうかはさておくとしても,同対策を原子力発電所の従業員が適切かつ迅速にとることについては,次のような多くの困難を伴う。
 第1に地震はその性質上従業員が少なくなる夜間も昼間と同じ確率で起こる。突発的な危機的状況に直ちに対応できる人員がいかほどか,あるいは現場において指揮命令系統の中心となる所長がいるかいないかは,実際上は,大きな意味を持つことは明らかである。

 第2に上記イベントツリーにおける対応策をとるためにはいかなる事象が起きているのかを把握できていることが前提になるが,この把握自体が極めて困難である。福島原発事故の原因について政府事故調査委員会と国会事故調査委員会の各調査報告書が証拠提出されているところ,両報告書は共に外部電源が地震によって断たれたことについては共通の認識を示しているものの,政府事故調査委員会は外部電源の問題を除くと事故原因に結びつくような地震による損傷は認められず,事故の直接の原因は地震後間もなく到来した津波であるとする。他方,国会事故調査委員会は地震の解析に力を注ぎ,地震の到来時刻と津波の到来時刻の分析や従業員への聴取調査等を経て津波の到来前に外部電源の他にも地震によって事故と直結する損傷が生じていた疑いがある旨指摘しているものの,地震がいかなる箇所にどのような損傷をもたらしそれがいかなる事象をもたらしたかの確定には至っていない。

 一般的には事故が起きれば事故原因の解明,確定を行いその結果を踏まえて技術の安全性を高めていくという側面があるが,原子力発電技術においてはいったん大事故が起これば,その事故現場に立ち入ることができないため事故原因を確定できないままになってしまう可能性が極めて高く,福島原発事故においてもその原因を将来確定できるという保証はない(甲32・208ないし220頁によれば,チェルノブイリ事故の原因も今日に至るまで完全には解明されていないことが認められる。)。それと同様又はそれ以上に,原子力発電所における事故の渦中にあっていかなる箇所にどのような損傷が起きておりそれがいかなる事象をもたらしているのかを把握することは困難である。

 第3に,仮に,いかなる事象が起きているかを把握できたとしても,地震により外部電源が断たれると同時に多数箇所に損傷が生じるなど対処すべき事柄は極めて多いことが想定できるのに対し,全交流電源喪失から炉心損傷開始までの時間は5時間余であり,炉心損傷の開始からメルトダウンの開始に至るまでの時間も2時間もないのであって,たとえ小規模の水管破断であったとしても10時間足らずで冷却水の減少によって炉心損傷に結びつく可能性があるとされている(上記時間は福島第一原発の例によるものであるが,本件原子炉におけるこれらの時間が福島第一原発より特に長いとは認められないし,第1次冷却水に係る水管破断による冷却水の減少速度は加圧水型である本件原子炉の方が沸騰水型原子炉である福島第一原発のそれより速いとも考えられる。)。

 第4にとるべきとされる手段のうちいくつかはその性質上,緊急時にやむを得ずとる手段であって普段からの訓練や試運転にはなじまない。上述のとおり,運転停止中の原子炉の冷却は外部電源が担い,非常事態に備えて水冷式非常用ディーゼル発電機のほか空冷式非常用発電装置,電源車が備えられているとされるが,たとえば空冷式非常用発電装置だけで実際に原子炉を冷却できるかどうかをテストするというようなことは危険すぎてできようはずがない。

 第5にとるべきとされる防御手段に係るシステム自体が地震によって破損されることも予想できる。高浜原発の何百メートルにも及ぶ非常用取水路が一部でも700ガルを超える地震によって破損されれば,非常用取水路にその機能を依存しているすべての水冷式の非常用ディーゼル発電機が稼動できなくなることが想定できるといえる。また,新潟県中越沖地震の際に柏崎刈羽原発においてその敷地内で活断層が動いたわけではないが,敷地内の埋戻土部分において1.6メートルに及ぶ段差が生じたことが認められる。

 高浜原発も柏崎刈羽原発と同様に埋戻土部分があることから,埋戻土部分において地震によって段差ができ,最終の冷却手段ともいうべき電源車を動かすことが不可能又は著しく困難となることも想定できる。高浜原発には,非常用ディーゼル発電機を初めとする各種非常用設備が複数存在することが認められるが,上記に摘示したことを一例として地震によって複数の設備が同時にあるいは相前後して使えなくなったり故障したりすることは機械というものの性質上当然考えられることであって,防御のための設備が複数備えられていることは地震の際の安全性を大きく高めるものではないといえる。

 第6に実際に放射性物質が一部でも漏れればその場所には近寄ることさえできなくなる。地震が起きた場合の対応については放射性物質の危険に常に注意を払いつつ瓦礫等を除去しながらのものになろうし,実際に放射性物質が漏れればその場所での作業は不可能となる。最悪の事態を想定すれば原子炉に近接する中央制御室からの避難をも余儀なくされることになる。

 第7に,高浜原発に通ずる道路は限られており施設外部からの支援も期待できない。この道路は山が迫った海岸沿いを伸びるものであったり,トンネルを経て通じているものであったりするから,地震によって崖崩れが起き交通が寸断されることは容易に想定できる。

以上:7,221文字

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