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ファウルボールによる失明について責任を認めた札幌地裁判決理由紹介2

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平成27年 4月 6日:初稿
○「ファウルボールによる失明について責任を認めた札幌地裁判決理由紹介1」を続けます。


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2 争点2(本件ドームについて「設置又は保存の瑕疵」(民法717条1項)ないし「設置又は管理の瑕疵」(国家賠償法2条1項)があったか)について
(1) 民法717条1項にいう土地の工作物の設置又は保存の瑕疵,国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,それぞれ,当該工作物又は営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これについては,当該工作物又は営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して,具体的かつ個別的に判断すべきである。

(2) 本件ドームとプロ野球の試合
ア 本件は,土地の工作物であり公の営造物である本件ドームの設置又は保存若しくは管理に瑕疵があるか否かが問題となっているところ,本件ドームは,プロ野球に限らず,サッカー等各種の興行が実施されている多目的施設ではあるが,本件球団の本拠地としてプロ野球の試合が頻繁に行われることが予定されている球場施設であって,これが主要な用途の一つであるから,本件ドームの瑕疵については,プロ野球の試合が頻繁に実施される球場施設(以下単に「プロ野球の球場」ということがある。)としての一般的性質に照らして検討されなければならない。

イ プロスポーツ競技として行う野球には,硬式球が使用され,野球のルール上,投手は,打者に向けて,打者の意図する打撃をさせないようにボールを投じ,打者は,投手が投じたボールをバットで守備側の選手に捕球されないようなエリアに打ち返すなどして進塁し,得点に至ることが目的である。プロ野球の試合を観戦するための観客席は,選手がプレーするグラウンドを取り囲む形で設けられているから,打者の打ったボールが観客席に飛来することは頻繁にあり(ルール上,外野席に飛来してホームランとなる場合と内野席に飛来してファウルとなる場合とがある。),一切の安全設備がなければ,全ての観客席に打球が飛来する可能性があるもので,観客に硬式球であるボールが衝突すれば,死亡や重大な傷害を負う危険もある(特に,ボールが幼児に衝突した場合は,極めて危険である。)。(弁論の全趣旨,顕著な事実)
 したがって,プロ野球の球場の管理者ないし所有者は,ファウルボール等の飛来により観客に生じ得る危険を防止するため,その危険の程度に応じて,グラウンドと観客席との間にフェンスや防球ネット等の安全設備を設けるなどする必要がある。

ウ 次に,設けるべき安全設備の種類や程度について検討するに当たっては,球場施設の利用状況を考慮する必要があり,これには,プロ野球の球場において観客が観戦する場合の実態を踏まえた通常一般の観客に求められるべき注意義務の内容が含まれるというべきである。

 プロ野球は,我が国において長年親しまれ広く普及しているプロスポーツであり,その観戦は,テレビ等のメディアを通じたものを含めて国民的な娯楽ということができるが,プロ野球の試合を観戦するために球場施設を訪れる観客が,常に野球に関する知識が豊富であったり野球のルール等を熟知していたりするということはできない。すなわち,プロ野球の試合は数万人に及ぶ観客を収容して興行することが想定されており,観客がプロ野球の球場を訪れて観戦するに至る経緯や動機は多種多様であって,性別を問わないし年齢層も幅広く,野球自体には特段の関心や知識もないが,子供や高齢者の付添いとして訪れる者や,初めて球場を訪れる者も相当数存在するものである。特に,招待された子供の付添いで訪れる者の中には,原告のように,自分自身は野球に特段の興味はなく,野球のルール等を知らない者が含まれていることは明らかである。また,スポーツ観戦という面では,野球のほかにもサッカーなどのプロスポーツが人気を得ているが,プロ野球の観戦が,他のプロスポーツの観戦と比べ,格段に危険性の高いものであるとの一般的認識があるわけではない。(原告本人,弁論の全趣旨,顕著な事実)

 プロ野球の球団を運営し,様々な広報活動(前記1(1)アの被告ファイターズが実施している企画も含まれる。)を行っているプロ野球の試合の主催者やプロ野球の球場の管理者ないし所有者は,上記のような実態を容易に把握することができるから,これを認識していたはずであるということができ,野球に強い興味関心を抱いているわけではなく,付添いとして初めてプロ野球の試合を観戦する者など,野球のルール等を知らない観客の存在にも留意して,ファウルボール等が観客席に飛来することにより生じる観客の生命・身体に対する危険を防止するための安全設備を設けるとともに,上記の危険への注意を喚起し,打球が飛来した際にとるべき回避行動の内容を周知するなどの安全対策を行うことが必要というべきである。

 他方で,ファウルボール等が観客席に飛来する危険は,プロ野球を観戦する上で排除することができないものであるから,観客にも相応の注意義務を果たすことが求められるというべきである。そして,野球の試合で使用されるボールは1個のみであるから,観客がプロ野球の球場で試合を観戦する際に打球の行方を注視することは,観客に求められる注意義務の中心をなす基本的な義務というべきであるが,観客がプロ野球の試合が行われている間,全ての機会に打球の所在を目で追っていなければならないとすることは現実的ではない。

 プロ野球のピッチャーが投球するタイミングは,サインのやりとりや,牽制球を投げたりする関係で,定間隔ではなく,投球がブザー等によって観客に知らされるわけでもないから,尐なくとも,原告のように子供を連れていて,その様子にも注意を払わなければならない者としては,必ずバッターが打つ瞬間を見ていることができるわけではない。また,観客席に飛来する打球は,打者が打撃により放つものであり,その瞬間まで打球の行方を予測することは不可能であり,打撃の直後にも打球の行方を判断することは困難であるから,打球の飛来により生じる危険を避けるためには,投手が投球動作に入ってから打者が打撃を行い,その行方が判断できるまでの間,必ずボールの所在を注意深く見ていなければならないことになるが,プロ野球の試合を観戦する観客の態度として,このような実態があるとは認められず,現状から余りにも乖離するものである。

 その上,プロ野球の試合では200球を超える投球がされることが多く,声を上げたり,鳴り物等を使うなどして応援し,試合中も主催者側が観客席で飲食物を販売したりしているのであるから,その全ての機会において,グラウンド内にある数十メートル先のボールから僅かな時間も目を離すことが許されないとすることは,著しく高い要求水準であり,不可能を強いるものである。乙イ61号証の映像をみても,バッターが打つ瞬間の観客の視線は,全員が同一方向を向いているわけではなく,横を向いている者,下を向いている者,子供の方を見ている者などもおり,さらには,バッターが打つ瞬間にも,通路や階段を移動中の者も見受けられるのである。

 また,例えば,子供を連れていた場合,自分と子供の両方の安全を確保することは極めて困難であり,大人が1人で,2人以上の子供を連れていた場合は,1人置いて離れた位置にいる子供の安全を確保することは,よほどの能力がない限り不可能である。また,観客は,グローブを持参し,かつ必ず捕球できるだけの能力を備えているわけではない(プロ野球の選手でも,ライナー性の打球を100パーセントキャッチできるものではない。)から,子供がボールに当たるのを避けるためには,自分自身があえてボールにぶつからなければならない場合も考えられる。元プロ野球選手であっても,グラウンド内のシートでは,ライナーを避けることができない可能性があるとしている(甲15)のであり,これが,内野席にどの程度入ったところで,一般の観客が避けることが可能になるのかは,明らかでない。

 プロ野球の球場では,観客にファウルボール等の打球が当たる事故が多数発生しており,本件ドームでも,毎年,観客に打球が当たる事故が多数発生し,救急搬送される者もおり,骨折等の重大な傷害を負う者もいる(甲7,39,乙イ9)。
 しかし,プロ野球の試合の観戦が,重大な傷害等を負う可能性があり,被告らが主張するような高度の注意義務を果たすべきであるものとして,広く国民一般に知られ社会的に受け入れられているとはいえないし,プロ野球の球場を訪れる観客においても,周知され受け入れられているとはいえないのである。(弁論の全趣旨,顕著な事実)

エ そうすると,プロ野球の試合の観客に求められる注意義務の内容は,試合の状況に意識を向けつつ,グラウンド内のボールの所在や打球の行方をなるべく目で追っておくべきであるが,投手が投球し,打者が打撃によりボールを放つ瞬間を見逃すことも往々にしてあり得るから,打者による打撃の瞬間を見ていなかったり,打球の行方を見失ったりした場合には,自らの周囲の観客の動静や球場内で実施されている注意喚起措置等の安全対策を手掛かりに,飛来する打球を目で捕捉するなどした上で,当該打球との衝突を回避する行動をとる必要があるという限度で認められるのであって,かつそれで足りるというべきである(例えば,高く打ち上がり飛行時間も長いいわゆるフライ性の打球について,観客がその所在を見失ったりした場合に,注意喚起の措置や周囲の状況等から当該打球を目で捕捉して,これとの衝突を回避する義務があるとすることは相当であり,漫然と回避行動をとらなかった者は,プロ野球の試合を観戦する際に求められる基本的な注意義務を怠ったものと解されよう。)。

 したがって,上記の限度で求められる観客の注意義務を前提に,プロ野球の試合が実施されるプロ野球の球場が通常有すべき安全性を備えるものであるかどうか検討する必要があるというべきである。被告らは,観客がバッターのボールを打つ瞬間を全く見ていないことを前提として安全設備を設ける必要はないなどと主張するが,上記のとおり,観客全員が,バッターがボールを打つところを100パーセント見ているとはいえないのであるから,プロ野球の観客は,確率は小さくても,たまたま見ていないときに打球が自分に向かってきた場合は,ボールを避けることができないのであって,観客がバッターがボールを打つところを見ていない可能性が全くないことを前提とした安全設備の設置管理には,むしろ瑕疵があるというべきである。

オ 被告らは,視認性ないし臨場感を確保すべきことは野球観戦における本質的な要素で,必要以上に安全設備を設けることは,プロ野球観戦の魅力を減殺させ,ひいてはプロ野球の発展を阻害する要因ともなりかねないなどと主張する。
 プロ野球の試合は,なるべく多数の観客を獲得しようとする興行として行われるものであり,プロ野球の球場を訪れる観客は,一般的に試合の臨場感を体感することを目的としているから,プロ野球の試合の主催者やプロ野球の球場の管理者ないし所有者にとっても,観客席からの視認性や試合観戦に伴う臨場感を確保することが重要であることは否定されない。しかし,プロ野球の観戦に球場を訪れる者は,前述のとおり多様であり,臨場感を最優先にしている者ばかりとは限らないのであるし,観客が果たすべき注意義務の程度が飽くまで前記エの限度で認められることを前提として,安全設備が設けられ,これを補完するものとして各種の安全対策がとられるべきであって,視認性や臨場感を優先する者の要請に偏してこれらの設備や対策により確保されるべき安全性を後退させることは,プロ野球の球場の管理として適正なものということはできない。バックネット裏の席には,目の前にバックネットがあるように,観客席へのネットの設置は,球場の施設として本質的に矛盾するものではなく,札幌ドームにおいても,フィールドシートには,ネットが設けられ,開業当初は,内野席にもネットが設けられていたのである。

 また,被告らは,臨場感を確保する要請を裏付ける事情として,近時,各地のプロ野球の球場でグラウンドにせり出して設置された座席が人気を博している旨主張する。しかし,このような座席は誰の目にも明らかに打球や送球が飛来する危険性が高いことが察知できる上,観客用のヘルメットを備え置き,これを着用するよう求める警告がある(MAZDAzoom-zoomスタジアム広島[乙イ27])など,内野スタンド上の観客席では実施されていない安全対策がされている例や,座席に着席した場合に目線の高さ程度に達するクッションや金網製のフェンスなどにより飛来するボールを遮断する安全設備が設置されている例(MAZDAzoom-zoomスタジアム広島[乙イ27],横浜スタジアム[乙イ29],QVCマリンフィールド[乙イ31],宮城球場[乙イ32])が見受けられるのであり,これらの安全設備が十分なものであるかどうかの判断はさておくとして,グラウンド上の観客席と内野スタンド上の観客席とを同列に論じることができないことは明らかというべきである。

 さらに,被告らは,防球ネットによる視線障害に対する苦情等が存在し,防球ネットを取り外したり低めたりしたプロ野球の球場が複数あると主張するが,仮にこのような苦情があったとしても,内野スタンド上の座席で観戦する観客にとって,安全設備や安全対策の内容を後退させてでも臨場感を得ることを優先することが一般的に受け入れられていることを示すものとはいえないし,他のプロ野球の球場において視認性の向上を図る目的で上記のような措置が行われたこと(甲10,乙イ29,30)についても同様である。そして,特別な席として,フィールドシートを設けるように,内野席の中に,ファウルボールにより,死亡や重大な傷害を負う危険はあっても,フェンスやネット等による視線障害のない,危険に対し自ら対処することを前提に,臨場感を楽しめる席と,フェンスやネット等による視線障害はあっても,ファウルボールにより,死亡や重大な傷害を負う危険のない,乳幼児を連れるなどしても安全に楽しめる席とを設け,入場者に選択させることも,内野席は広く席数も多いのであるから,十分可能であるし,また,本件ドームにネットを設けることが過大な費用を要したりするものでもない(乙ロ2)。

 そして,被告らが,防球ネットを設置しないことにより,視認性や臨場感を高め,観客を増加させているのであれば,これによって多くの利益を得ているのであるから,他方において,防球ネットを設置しないことにより,ファウルボールが衝突して傷害を負った者の損害を賠償しないことは,到底公平なものということはできないのである。

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