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禁治産宣告前の法律行為の無効を主張に関する大阪高裁判例全文紹介2

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平成27年 1月 7日:初稿
○「禁治産宣告前の法律行為の無効を主張に関する大阪高裁判例全文紹介1」の続きです。





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理  由
一 被控訴人の所有であつた本件各物件に、控訴人らがそれぞれAないしEの登記をなしていることは当事者間に争いがない。

二 被控訴人は、右各登記のなされた昭和32、3年当時、心神喪失の常況にあつて意思能力がなかつたものであり、控訴人らは被控訴人の無能力に乗じ、共謀して被控訴人名義の私文書を偽造して右各登記をなした旨主張するので判断する。

(一)、なるほど、被控訴人は昭和36年12月4日禁治産者とする旨の審判を受けたことが明らかであり、右宣告を受けた者は、民法上無能力者として取扱われ、その行為は個々の場合における意思能力の有無を明らかにするまでもなく、無能力者であることを理由として一律に取消されうるのであるが、右禁治産宣告以前においては問題となるべき行為のなされた個々の時点において、意思能力の無かつたことを明らかにしない限りその行為を無効となし得ないものであり、しかも右無能力の立証責任はこれを理由として当該法律行為の無効を主張する者が負担すべきものである。

 ところで本件の場合、〈証拠〉を綜合すると被控訴人の精神状態は次のとおり判定するのが相当であり、甲第5号証の2は一部採用できない。

 被控訴人は幼少時より脳性小児麻痺のため、肉体的には発声困難による言語障害や両上肢の運動制限があり、特に手指の運動は不自由で粗大な運動は可能であるが微細な運動は不能であり、又全身の痙れん発作が時々起ることがある、精神的には領解力はほぼ正常で意識も清明であるが、学歴不足により知能程度はやや劣り、計算力、読書、書字の低劣があり、言語テストによる知能指数(IQ)は60で、性格的には固執性、被影響性や情緒的統制の悪さという特性があり、人格的に未熟である。右最終鑑定時の以前10年間に同人が進行性の精神疾患、脳疾患に罹つた形跡はないので、右の鑑定に基づいて昭和30年当時の状況を判定することは可能である。又いわゆる精神薄弱に含まれる者もその程度によつて、重症の者から順次白痴、痴愚、軽愚の三段階に分れるが、被控訴人は軽愚よりはやや程度が低いと見るべきである。

 更に本件各登記時前後における被控訴人の行動につき次のとおり認定される。
1、本件以前である昭和28年及び昭和31年頃、被控訴人はその所有する田地を松本券次、及び八木嘉蔵に売却しており、八木に売却した代金37万円は弟清の居住家屋を建築するために使用されていること。右売買に際し、八木は被控訴人の母親をたずねて被控訴人が田を売つてもよいのか質したことがあつたが、その後被控訴人から「あなたはわしの契約をうたがい、母や親戚に問合せた」旨不平を言われたことがある〈証拠略〉。

2、本件当時である昭和32年12月頃、被控訴人はその所有する姫路市飯田字善慶田248番地の一、田四畝25歩を三和円蔵に33万円で売却している〈証拠略〉。

3、単純な仲介労働によるものであるが、被控訴人はわらや化学肥料の売買を仲介して収入を得ていたことがある〈証拠略〉。

4、昭和31年6月頃から昭和32年1月頃まで、石田千代子と結婚(内縁)生活を営んでおり、しかも同人の供述によると、被控訴人は平素真面目で義理人情もわきまえていたし夫婦生活も可能であつたが、弟清には家を建て、田もつけてやつたのに、末弟末一には何もしてやらずかわいそうだと母に泣きつかれたりするので、カッとなり酒を飲んだりして生活が乱れるので別れた旨述べており、千代子が被控訴人と別れたのは同人が無知、無能力であるからでない。

5、本件第1、二物件を控訴人X1に売却したのは、弟清が風呂の釜を引あげていつたりするので、被控訴人としてはこのまゝ放置されると困るので何か商売をしたいと思つたからで、売却代金をもつて釣具である鎮を卸店から購入するため大阪市まで出掛けたことがある〈証拠略〉。

6、昭和35年9月頃、末弟末一に口述して乙第二号証の葉書を代書させているが、その文面は稍理解し難い節もあるが、兎も角三和円造のため強制的に土地をとられたので、その取戻に協力を求める依頼文と読みとることは可能であり、なお、鑑定時において右葉書の内容にふれると、被控訴人は明白な情緒的ストレスを示した〈証拠略〉。

7、被控訴人は橋爪春次と同級生であり、かつ近隣であつたが、同人方で世間話をするうち、禁治産宣告を受けたことに対する不満をもたらしたことがあり、同人も被控訴人が無知、無能力で一人前のことができない者と思つたことがない〈証拠略〉。

 以上の事実を認めることができるのであり、これらの事実を前掲鑑定結果と併せ考慮するとき、被控訴人は前記のごとく知能指数が低く人格未熟であるが、それ故に本件各登記のなされた時点において意思能力が無かつたとか、あるいは、その前後を通じて意思能力がなかつたと判定することは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)、進んで、控訴人らと訴外熊田孟雄が共謀して被控訴の意思能
力の不十分に乗じて、その財産を奪取したとの被控訴人の一連の主張について考察すると、前掲事実摘示欄の当事者双方の主張を比較しつつ本件の全証拠調と口頭弁論の全趣旨を綜合して検討しても、いまだ被控訴人の主張の根拠とされている諸般の事実関係を認定するだけの心証をひかないのであり、

(三)、かえつて〈証拠〉を綜合すると、次のとおり本件各登記がなされた具体的事情を認めることができるのであり、〈反証排斥略〉他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
1、被控訴人は本件第一物件(土地)上にある本件第二物件(家屋)に住居していたものであるが、昭和32年頃から弟末夫の提案により金員を借用してアイスコーンの製造販売を始め、又同製造につき技術を有する熊田孟雄を招き同居させていたが、右商売も思わしくなかつたので、本件第1、二物件を担保に金を借りて他に商売を始めようと思い、昭和32年8月頃、熊田の知人である控訴人X1方に熊田とともに数回訪れ金員借用方を申入れた。

 控訴人X1は右申入れを断つてきたが、同年9月になつて、右物件を買つて欲しい旨の申出があつたので、その真意を確かめてこれに応ずることとし、同月18日頃代金を15万円と定めて売買契約を結びA登記を了したが同月10日前後に数回に分けて合計15万円を熊田とともに受取りに来た被控訴人に支払つた。

 控訴人X1は、念の為、本件第二物件の明渡のため、居住者である被控訴人と熊田を相手方として、姫路簡易裁判所に即決和解の申立をなしたところ、被控訴人は弟清とともに出頭して立会い昭和32年11月6日、同年同月末日限り同物件を明渡す旨の和解が成立したが、その際、清は同控訴人に対し今後とも被控訴人のことをよろしくと依頼した。控訴人X1は同年12月初頃同物件の引渡を受けた。

2、同年12月中頃、被控訴人と清は控訴人X3に対し、本件第1、二物件を控訴人X1に売つたが代金を貰つていないと告げたところ、これを聞いた控訴人X3は来合せていた知人X4伸太郎とともに控訴人X1に同物件の返還を求め、X4伸太郎はその後も何回となく右の件で文句をつけに来た。控訴人X1は右応対を逃れるために本件第1、二物件の登記簿上の所有名義を第三者に移転しようと思い立ち、友人で学校の教員をしていた控訴人X2に頼み、昭和33年1月8日形式上同人名義でB登記を了した。

3、その内被控訴人及び当時同人を自宅に同居させていた控訴人X3から右物件を買戻すために被控訴人所有の姫路市飯田字善慶田248番地の一、田四畝25歩を売却する話が持上り、そこで当時町内会長の三和円蔵は子三和太郎名義でもつてこれを33万円で買取ることになり、昭和32年12月末頃、右代金から被控訴人に貸与していた5万円を差引き残28万円を支払つた(なお、移転登記は昭和33年5月14日になされている)。

 ところで、三和円蔵から支払うけた右28万円では、買戻資金に足りないので、控訴人X3の提案により、これを資金として、被控訴人、その弟末一、及びX3の息子が共同して、し尿汲取業を始めることとしてその準備に着手したがこれは途中で中断された。被控訴人、母こたけ、弟らは右控訴人と協議の上、本件第1、二物件の買戻方法として本件第三物件を売却することとし、その処分及び買戻の斡旋を成影勝三に依頼し、同人が控訴人X1と交渉した結果、昭和33年1月16日、控訴人X1と被控訴人間において、水本司法書士、成影勝二、控訴人X3ら立会の上
(1)、本件第三物件を代金80万円で控訴人X1に売渡す、同人は内50万円を同日支払い、残30万円は所有権移転登記と引換えに支払う。

(2)、右50万円は、本件第1、二物件の買戻代金36万円と現金14万円をもつて支払う、したがつて、右各物件の所有権移転登記に要する一件書類は控訴人X1から被控訴人に交付する。

(3)、本件第三物件は農地であり、移転登記には知事の許可を要するので直ちにその登記手続ができないため、右支払つた代金50万円につき同日消費貸借契約を結び、これを担保するため、抵当権設定登記及び売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記をする、なお、被控訴人は農地法五条の許可申請をする。
 旨の契約が成立し、控訴人X1は同日右14万円及び本件第1、二物件の移転登記に必要な控訴人X2名義の一件書類を被控訴人に交付し、かつ右契約に基づき、同月22日控訴人X1名義にE登記がなされた。

4、被控訴人は右契約により本件第1、二物件の買戻をなしたが、当時市の分譲住宅が売りに出されていたところ、被控訴人の母が、本件第三物件を処分し残代金30万円も近々入ることでもあるから末一のために右分譲住宅を買つてやりたいと言い出し、被控訴人もこれを承諾したが、右買取資金に不足し、又買取申込期限もせまつていたので、とりあえず本件第1、二物件を担保に金を借りるよう控訴人X3に依頼した。同人は右依頼に基づき、取引先である兵庫県商工信用株式会社と交渉したが、同社は取引のある控訴人X3になら貸与するとのことであつたので、被控訴人や母こたけ及び弟らにその旨伝えたところ、被控訴人らは同物件の所有名義を形式上X3名義とすることにつき同意をなし(丙第二号証)、早急に借りてほしいとのことであつた。そこで、同控訴人は控訴人X1から交付を受けていたX2名義の所有権移転登記に必要な一件書類を利用して同物件につき、同年1月22日控訴人X3名義にC登記をなした。
 同人は同物件を担保に、右会社から15万円を借用したが、手違いから右分譲住宅を購入することができなかつた。

5、ところが、右借用金を期日に返済できないこととなり、代物弁済として本件第1、二物件を前記会社に取上げられるおそれが生じたため、被控訴人や母らが控訴人X3及び三和円蔵に相談したところ、当時勤務先を退職し、その社宅の明渡期限も切れ住宅を物色していたX4伸太郎に買取方を交渉することになつた。X4は同人らから申出を受けて右物件を調査したが、非常に古く居住に耐えがたいようであつたので断わつたが、被控訴人やその母、弟らから売買代金は右担保を消滅させるに必要なだけでよいと懇請するので、意を決して買受けることになつた。そこで、被控訴人らにおいて買戻資金ができた時は買戻すことができる、X4は被控訴人らと同居するとの特約付で、とりあえずX4伸太郎が右借用元利金で右物件を買取り、昭和33年4月30日同人名義にD登記がなされた。同人は前記会社に借用元利金17万2、300円を支払つてその担保権を消滅させた。

6、被控訴人自身は十分の意思能力を有しなかつたことは前認定のとおりであるが、母あるいは弟ないし、熊田、X3、三和らの援助を受けて以上の行為をした。

 以上の事実を認めることができ、右事実によると、本件各登記が被控訴人の意思無能力に乗じ、控訴人らが共謀して各文書を偽造してなされた無効のものであるとする被控訴人の主張が理由のないこと明らかであり、かつD及びE登記は現在の実体上の権利関係と合致するものであるから、同登記は維持されるべきであり、又X4伸太郎、したがつてその承継人である控訴人X4の第二物件の占有はその権原に基づくものであるから、結局被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は控訴人X4に対する付帯控訴も併せすべて理由がなく棄却されるべきである。

三 以上により、原判決中、被控訴人と控訴人らに関する部分は控訴人X4の勝訴部分を除きすべて取消した上、被控訴人の控訴人らに対する右各請求及び控訴人X4に対する付帯控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法95条、96条、89条にしたがい主文のとおり判決する。
(沢井種雄 和田功 中田耕三) 

 〈登記目録省略〉

以上:5,294文字

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