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禁治産宣告前の法律行為の無効を主張に関する大阪高裁判例全文紹介1

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平成27年 1月 7日(水):初稿
○法律行為とは意思表示を要素とする法律要件、法律要件とは一定の法律効果を生じるために必要とされる事実の総体、法律効果とはと権利・義務の発生・変更・消滅なんて、定義を受験時代一生懸命暗記しました。勉強は暗記ではないなんて言われますが、私は勉強の基本は暗記から始まると確信し、兎に角、暗記を重視し、条文・用語の定義等の暗記に徹しました。小さいときから暗記が比較的好きで苦でなかったこともあります。

○意思表示とは、一定の法律効果を発生させるための意思の表示行為過程で動機・効果意思・表示意思・表示行為がありますが、前提として意思能力が必要であり、意思能力とは自己行為の結果を弁識するに足りる精神的能力-事理弁識能力と定義され、一般的には小学5年生程度から具備されると言われています。

○現在、知能指数と意思能力の関係が問題になる事案を抱えており、意思能力が有りと言えるためにはどの程度の知能指数が必要かを判断した裁判例を探していますが、なかなか見つかりません。知能指数は、意思能力有無判定の一基準にはなっても決め手にはならないからかも知れません。

○現在成年後見制度と呼ばれる制度は、昔は禁治産宣告制度と呼ばれており、禁治産宣告を受けた者の禁治産宣告前の法律行為が無効でないとされた昭和49年10月10日大阪高裁判決(判タ322号144頁)全文を2回に分けて紹介します。この判決は、禁治産者の法律行為といえども、禁治産宣告前の行為であるときは、取消すことができず、その行為時において意思能力を欠いていたことを立証しないかぎり、その法律行為を無効となし得ないとするものです。この判決では、知能指数(IQ)60と認定された者の意思能力を事実上認めています。

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主  文
原判決中、被控訴人と控訴人らに関する部分は控訴人X4の勝訴部分を除きすべてこれを取消す。
被控訴人の右各請求及び控訴人X4に対する付帯控訴はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用中、右付帯控訴に要した費用は被控訴人の、その余の費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 

事実
第一、当事者の求めた裁判
一、控訴人X1、X2、X3、X4の申立

 主文同旨の判決。

二、被控訴人の申立
(本件控訴につき)
 本件各控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。
 (付帯控訴につき)
 原判決第九項を取消す。
 控訴人X4は被控訴人に対し、昭和33年9月1日から原判決添付第二物件目録記載の家屋明渡済に至るまで一ケ月3、622円の割合による金員を支払え。
 付帯控訴費用は控訴人X4の負担とする。
 右金員の支払を命ずる部分、及び原判決第六項につき、無条件の仮執行宣言。
 なお、原判決第一ないし五項の各冒頭に「原告(被控訴人)に対し」と加入し、同第一項二行目から「受付第10428号」とあるを「受付第10468号」と訂正し、同第二項二行目に「受付第536号」とあるを「受付第535号」と訂正し、同第二項三行目から「抵当権設定登記、」とある次に「同支局受付第536号を以てなされた同債権者、債務者間の」と加入して更正する。

第二、当事者双方の主張
(被控訴人の主張)

1、被控訴人は原判決添付第一ないし三物件目録記載の物件(以下本件各物件という)を所有しているものであるが、控訴人らは別紙登記目録記載のAないしEの登記(以下AないしE登記という)をなしている。

二、しかし、被控訴人は生来の脳性小児麻痺で生後三ケ月位で両手掌を握つた儘で手指の運動が不自由であつたところ、小学2年生の頃けいれん発作を起しその後現在まで一週間に4、5回の発作を起し、かつ言語不明瞭、手足の運動制限、精神薄弱による高度の痴愚等のため独立した社会生活を営むことは不能であつて責任能力のない常況にある。従つて、被控訴人はその母、弟らの援助により生計を維持しているものであり、又読み書きは出来ないばかりか、押印行為も極めて困難な状態であるから、本件各物件を控訴人X1らに売却する能力もなかつたし、その必要もなかつたものである。

 このような被控訴人の無能力に乗じ、控訴人X1は被控訴人名義の私文書を偽造してA、Eの各登記をなし、その余の控訴人らは控訴人X1と共謀してB、C、Dの各登記をなしたものであるが、これらはいずれも被控訴人の無能力に乗じて本件各物件の奪取を目的として作為された実体のない無効のものである。即ち
(一)、控訴人X1はその主張(一)において、熊田孟雄及び被控訴人からの申込みにより、本件第1、二物件を15万円で買受けたと主張するが、熊田は右控訴人の共謀者であり、被控訴人の弟清が同控訴人の不法な奪取行為を詰問したところ、熊田は清に対して暴力をふるい傷を負わせて罰金に処せられているのである。又代金15万円にしても、熊田が被控訴人を姫路市や塩田温泉に二回程誘惑して遊興し、その費用を15万円と偽つているにすぎない。

(二)、更に、本件第二物件明渡の即決和解にしても、無能力者である被控訴人のみを相手方とすると後日無効等の問題が生じるので、控訴人X1は自己の味方である熊田及びX4伸太郎と共謀して、熊田をも形式上の相手方となして裁判所を欺罔して同和解を成立させた上、被控訴人を追出してX4伸太郎を入居させたものである。

(三)、被控訴人及び母こたけは三和円蔵に依頼して控訴人X1に18万円出すから本件第1、二物件を返還してほしい旨申出たところ、控訴人X3が30万円出せば返すと言うので、被控訴人らは協議して同人所有の姫路市飯田字善慶田の田を他へ33万円で売却し、この金を控訴人X3を通じて控訴人X1に交付したが、同人は内30万円を受取りながら右物件を被控訴人に返還せず、X4伸太郎に対しD登記をなしたものである。控訴人X3が控訴人X1と意を通じていたものであることは、控訴人X1が被控訴人及び控訴人X3に対し、50万円の貸金債権ありとしてその支払請求の訴を提起したのに対し、控訴人X3はこれを認めて慣合判決を受けていることからも明らかである。

(四)、控訴人X1はその主張(三)において、本件第三物件を80万円で買取つた旨主張するが、被控訴人の全く関知しないことであり、控訴人X1と控訴人X3、X4伸太郎、成影勝二、司法書士水野らが結託して、被控訴人の母、弟を欺罔して主張の誓約書なるものに押印させ、その他必要書類に被控訴人の印を盗用押印した上、奪取したものである。被控訴人は現金14万円を受取つていないし、本件第1、二物件を36万円で買戻す約定をしたこともないのに、控訴人X1はこれを合せて被控訴人に対する50万円の貸金債権とするが如きは二重に金品を詐取したものである。

(五)、控訴人X3は、
その主張(一)において、被控訴人らの申出により、本件第一、二物件を担保として、被控訴人のために訴外会社から金融を受けた旨主張するが、被控訴人らは同控訴人と一面識もなかつたところ、昭和33年1月、突如右物件を取戻してやると言つて現われ、被控訴人らはその甘言に欺されて同控訴人方に出入するようになつたが、同人から金を借りたこともないし、主張の金員を受取つたこともない。右控訴人は控訴人X1から一件書類を受取つて自己名義にした上、約1ケ月後X4伸太郎名義に移転したもので、同人らは共謀の上、右物件を奪取した。

(六)、被控訴人らは控訴人X1、X3及び熊田を私文書偽造、同行使、詐欺等の罪名で告訴し、その事実調べも進行していたが、右控訴人らは被控訴人らに甘言をもつて和解を申込んで取下書に押印させ、無能力者なる被控訴人のみを自動車で検察庁に送り取下書を提出せしめたものである。
 よつて、被控訴人は本件各物件の所有権に基づき、控訴人らに対し本件各登記の抹消登記手続を求めるものであり、これを認容した原判決は相当である。

三、ところが、控訴人X4伸太郎は昭和39年3月25日死亡し、その妻X4キミ、長男X4伸好、長女藤田広子、二女岡本英子、三女X4富子が相続によりその権利義務を承継したが、X4伸太郎はD登記の名義人であり、かつ本件第二物件(家屋)を昭和33年9月1日以前から単独で占有しているから、被控訴人は右承継人らに対しD登記の抹消と本件第二物件の明渡を求めるものであるが、付帯控訴により、昭和33年9月1日から右明渡済に至るまで一ケ月3、622円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

四、原判決には、前記被控訴人の申立七項のとおり明白な誤謬があるので、その更正を求める。
(控訴人らの主張)
1、被控訴人の主張一項の事実は認める。但し、現に被控訴人が所有者であることは否認する。同二項の事実は否認する、被控訴人は当時心神喪失の常況にあつた者でなく、意思能力及び行為能力を有していたのであり、控訴人らは後記のとおり有効に本件各登記を了したものである。同三項のうち、承継人らがX4伸太郎を相続し、その権利義務を承継したこと、並びに本件第二物件を主張の日以前から占有していることは認める

(右三項につき控訴人X4の答弁)。
二、控訴人X1、同X2の主張

(一)、控訴人X1は被控訴人及び熊田から昭和32年9月118日頃、本件第一、二物件の買取方を申込まれたのでこれに応じ、代金を15万円と定めて売買契約を締結した上、A登記を了した。

(二)、ところが、同年12月中頃、控訴人X3及びX4伸太郎が控訴人X1に対し、右物件の代金が安過ぎるから返還せよと毎夜のように要求するので、その応接に心労した同控訴人は友人である控訴人X2に依頼して同人名義にB登記をなした。

(三)、その頃、控訴人X1は控訴人X3と同道してきた被控訴人から右各物件の買戻し方を求められたので、登記費用等を含めて42万円で右申出に応ずる旨答えていたところ、控訴人X3及び仲介業者成影勝二から本件第三物件を買取つてくれるよう申込まれた。そこで、控訴人X1は昭和33年1月16日被控訴人から右物件(田)を代金80万円で買受け、その代金の内50万円は本件第1、二物件の買戻代金36万円と現金14万円の交付をもつて支払をなし、残30万円は所有権移転登記と引換えに支払うこととしたが、右移転登記をするには知事の許可を要するので、とりあえず仮登記をなし、かつ支払つた代金50万円を被担保債権として抵当権設定登記をなすこととし、その旨E登記を了した。

三、控訴人X3、同X4の主張
(一)、控訴人X3は、昭和33年1月20日頃、被控訴人、その母こたけ、弟末一から、末一の住家を入手するために本件第1、二物件を担保として融資方を申込まれたので、兵庫県商工信用株式会社に取次いだところ、取引のある控訴人X3に対してならば貸与する旨の回答であつたので、被控訴人らの承諾を得た上形式的に控訴人X3名義にC登記をなし、同物件を担保に右会社から15万円を借用して被控訴人に交付した。

(二)、X4伸太郎は昭和33年4月頃、被控訴人やその弟及び控訴人X3から、本件第1、二物件を担保に金融を受けているが、代物弁済として取上げられるおそれがあるので右借用金19万円で買取つて貰いたい旨の申出を受けたので、これに応じて右代金を支払い同物件につきD登記を受けたものである。

第三、当事者双方の証拠関係は原判決事実摘示記載のほか、次のとおりである。〈省略〉 

以上:4,658文字

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