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訴えの提起を違法とする判断基準を示した最高裁判決全文紹介2

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平成26年 3月 6日(木):初稿
○「訴えの提起を違法とする判断基準を示した最高裁判決全文紹介1」を続けます。


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二 原審は、右事実関係のもとにおいて、被上告人の実施した測量結果により算出された本件土地の面積が実際のそれより少なかつたからといつて、上告人が被上告人に対し、委任、請負等の契約上の責任はもとより、不法行為上の責任も問いえないことは明らかであり、上告人が前訴において敗訴したことは当然のことであるとしたうえ、前訴の提起に先立ち、まず、被上告人に対し測量図等が何人のどのような指示に基づいて作成されたかについて事実の確認をすることが通常人の採るべき常識に即した措置というべきところ、上告人が右のような措置を採つていれば、容易に測量図等が作成されるまでの経過事実を把握することができ、被上告人に対して損害賠償を請求することが本来筋違いであることを知りえたものというべきであるのに、上告人は右の確認をすることなくいきなり前訴を提起したのであるから、前訴の提起は被上告人に対する不法行為になるとし、上告人は被上告人に対し、被上告人が前訴の追行を委任した弁護士に支払つた報酬等相当の80万円を損害賠償として支払う義務がある旨判示している。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。

 したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。

 以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。

 これを本件についてみるに、原審の確定した事実関係は前記のとおりであり、上告人は、被上告人が上告人の依頼に基づき本件土地の測量図を作成した際過小に測量したため、実際の面積より不足する分について土地代金をもらえず損害を被つたと主張し、被上告人に対して損害賠償を求める前訴を提起し、被上告人に実際に測量を依頼したのは訴外会社であつて上告人ではないことを理由とする敗訴判決を受けたが、前訴提起の当時、訴外会社に本件土地を売り渡したのは上告人で、被上告人に対する測量の依頼も訴外会社を通じて上告人がしたことであつて、被上告人の誤つた測量により損害を被つたと考えていたところ、本件土地が上告人の買い受けたもので、Bは、破産管財人との関係を慮り、上告人の承諾を得たうえ自己の名でこれを訴外会社に売り渡す契約をしたのであり、しかも、右契約は精算のため後日測量することを前提としていたのであるから、実質上、Bが上告人の代理人として売買契約及び測量依頼をしたものと考える余地もないではないこと、上告人が、Bにおいて訴外会社に働きかけて本件土地の面積を実際の面積よりも少なくし、その分の代金相当額を訴外会社と折半しようとしているとの情報を得て、訴外会社に対し、本件土地の所有者は上告人であるから残代金を支払つて欲しい旨の通知をしていたのに、訴外会社が被上告人の測量結果を盾にとつて精算に応じようとしなかつたことなどの事情を考慮すると、上告人が被上告人に対して損害賠償請求権を有しないことを知つていたということはできないのみならず、いまだ通常人であれば容易にそのことを知りえたともいえないので、被上告人に対して測量図等が何人のどのような依頼や指示に基づいて作成されたかという点につき更に事実を確認しなかつたからといつて、上告人のした前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず、したがつて、被上告人に対する違法な行為であるとはいえないから、被上告人に対する不法行為になるものではないというべきである。

 そうすると、原審の前記判断には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記の事実関係及び右に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は理由がないから、これを棄却した第一審判決は相当であり、被上告人の本件控訴は理由がないので棄却すべきである。

 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法408条1号、396条、384条1項、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官長島敦 裁判官伊藤正己 裁判官安岡満彦 裁判官坂上壽夫)

以上:2,485文字

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