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転送義務違反に関する平成15年11月11日最高裁判決全文紹介3

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平成26年 1月31日(金):初稿
○「転送義務違反に関する平成15年11月11日最高裁判決全文紹介2」の続きで、結論です。



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(2) 相当程度の可能性の侵害について
 医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかった場合には、その医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが、上記医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解すべきである(最高裁平成9年(オ)第42号同12年9月22日第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁参照)。患者の診療に当たった医師に患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務の違反があり、本件のように重大な後遺症が患者に残った場合においても、同様に解すべきである。すなわち、患者の診療に当たった医師が、過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において、その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも、適時に適切な医療機関への転送が行われ、同医療機関において適切な検査、治療等の医療行為を受けていたならば、患者に上記重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

 このような見地に立って、本件をみるに、被上告人には、急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務を怠った過失があることは、前記のとおりであり、また、前記事実関係によれば、上告人には急性脳症による脳原性運動機能障害が残り、上告人は、身体障害者等級一級と認定され、日常生活全般にわたり、常時介護を要する状態にあり、精神発育年齢は二歳前後で、言語能力もないとの重大な後遺症が残ったというのである。したがって、被上告人が、適時に適切な医療機関へ上告人を転送し、同医療機関において適切な検査、治療等の医療行為を受けさせていたならば、上告人に上記の重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、被上告人は、上告人が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものというべきである。

 しかるに、原審は、前記のとおり、急性脳症の予後が一般に重篤であって、統計上、完全回復率が22.2%であることなどを理由に、被上告人の転送義務違反と上告人の後遺障害との間の因果関係を否定し、早期転送によって上告人の後遺症を防止できたことについての相当程度の可能性も認めることができないと判断したのであるが、上記の重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存否については、本来、転送すべき時点における上告人の具体的な症状に即して、転送先の病院で適切な検査、治療を受けた場合の可能性の程度を検討すべきものである上、原判決の引用する前記の統計によれば、昭和51年の統計では、生存者中、その63%には中枢神経後遺症が残ったが、残りの37%(死亡者を含めた全体の約23%)には中枢神経後遺症が残らなかったこと、昭和62年の統計では、完全回復をした者が全体の22.2%であり、残りの77.8%の数値の中には、上告人のような重大な後遺症が残らなかった軽症の者も含まれていると考えられることからすると、これらの統計数値は、むしろ、上記の相当程度の可能性が存在することをうかがわせる事情というべきである。
 そうすると、原審の上記判断には、上記の相当程度の可能性の存否に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

5 以上によれば、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨は理由があり、原判決中上告人に関する部分は破棄を免れない。そして、上記の相当程度の可能性の存否等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・濱田邦夫、裁判官・金谷利廣、裁判官・上田豊三、裁判官・藤田宙靖) 


以上:1,855文字

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