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違法収集証拠に関する平成10年5月29日東京地裁判決紹介1

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平成25年 8月15日(木):初稿
○無断録音されたテープの内容について証拠能力があるかどうかの判例を紹介してきましたが、今回は、夫が妻の不倫相手を被告として提起した損害賠償請求訴訟において、妻が夫の了解なく持ち出した夫の陳述書の原稿ないし手元控えとして作成した大学ノートを、被告側から証書として証拠申出したところ、裁判所から信義誠実の原則に反するとして証拠申出が却下された珍しい事例を紹介します。平成10年5月29日東京地裁判決(判タ1004号260頁、判タ臨時増刊1036号241頁)で、裁判官は、高名な塚原朋一裁判官です。同裁判官仙台地裁在職中に私も判決を頂いたことがありますが、納得できる判決でした。

○夫・妻Aは、2人の子供が居る夫婦でしたが、妻Aが被告と不倫関係になり、最終的には子供2人を連れて家出して、被告方に同居しました。そこで、原告が被告に対し、妻Aに夫が居ることを知りながら、男女関係を継続し、原告の夫婦関係に亀裂を生じさせ、夫婦関係を破綻させたとして1000万円の慰謝料請求をしました。塚原裁判官は、随所で被告を厳しく非難しながら、認めた慰謝料金額は150万円でした。

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主  文
一 被告は、原告に対し、150万円及びこれに対する平成9年10月15日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

理  由

1 請求原因一の事実(原告とAの婚姻)は、弁論の全趣旨によって、認めることができる。なお、甲2によれば、原告は昭和32年6月11日の生まれであり、Aは昭和35年12月16日の生まれであることが認められる。

2 請求原因二の事実(原告の家族史)のうち、平成7年10月ころ、Aがその友人に頼まれ、もみの木でアルバイトを始めたこと、平成9年春ころAがスナック○○に火曜日だけアルバイトを頼まれ、午後8時から午前2時頃まで勤めることになったことは、当事者間に争いがなく、その余の事実は、弁論の全趣旨によって、認めることかできる。

3 請求原因三の事実(Aの不倫への疑念)のうち、Aの持ち物の中から、被告名義の水道料金の領収書等が出てきたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、弁論の全趣旨によって、認めることができる。

 なお、被告は、右の事実について、Aが被告の水道料金の領収書を所持していた理由について、被告が昼間自ら水道料金の支払ができないため、Aが代わりに支払ってやったにすぎないと主張し、被告本人及び証人Aも、尋問において、同趣旨の供述をするが、にわかに信用することができないものの、仮に、真実、そうであるとしても、Aのバックの中に入っていた下着などとあいまって、被告とAとの関係は相当程度親密になっていたことを物語るものであり、単なる客や飲み友達以上の関係にあるとの原告の推測を邪推であると断じ切れるものではない。そもそも、Aの一連の外形的な行為(原告に対する弁解の態度及びその内容を含む。)は、事の真相はともかく、Aの不貞行為を強く疑わせるものであって、それにもかかわらず、原告に疑わないよう要求することは、原告に馬鹿になれと要求するに等しいものである。

二 請求原因四の事実(Aの被告との不倫)について
1 証拠について
 被告訴訟代理人は、原告本人の反対尋問において、何度か、原告本人の作成した大学ノートに書かれてあった内容を引き合いにして質問を行ったので、当裁判所は、そのような書証が提出されていないことに疑問を抱き、被告訴訟代理人に対し その大学ノートとは何か」と質問したところ、被告訴松代理人は、後に提出する予定の書証の写しとして、乙4の大学ノートを提示したうえ、後に提出する書証として原告本人に提出し、これに対し、原告訴訟代理人は、そのような窃取したような文書は証拠として提出することに異議があると主張しているので、判断する。

 わが民事訴訟法は、刑事訴訟法と異なり、証拠能力については規定しておらず、すべての証拠は証拠能力を付与されるかのごとくであるか、当該証拠の収集の仕方に社会的にみて相当性を欠くなどの反社会性が高い事情がある場合には、民事訴訟法2条の趣旨に徴し、当該証拠の申出は却下すべきものと解するのが相当である。

 これを乙4の大学ノートについてみると、同文日の記載内容・体裁、甲6の原告の陳述書の記載内容との比較対照の結果、原告本人の、述を総合すると、乙4は、原告本人が甲6の陳述書の原稿として弁護士に処し差し出したものか又はその手元控えてあることが明らかであり、そのような文書は、依頼者と弁護士との間でのみ交わされる文書であり、第三者の目に触れないことを旨とするものである。乙4は、おそらくAが原告と別居後に原告方に入り、これを密に入手して、被告を介して、被告訴訟代理人に預託したものと推認される。そうすると、乙4は、その文書の密行性という性質及び入手の方法において、書証として提出することに強い反社会性かあり、民事訴訟法2条の掲げる信義誠実の原則に反するものであり、そのような証拠の申出は違法であり、却下を免れないというべきである。特に、乙4には、これを子細にみると、被告に有利な点もあれば、不利な点もあり、被告は、突然として、後出の書証として、提示し、そのうち有利な点をあげつらって、反対尋問を行おうとしたものであって、許容し難い行為である。



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