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転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由3

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平成24年10月 4日(木):初稿
○「転送義務違反での請求額全部認容判例紹介-判決理由2」の続きです。




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第四 Bの直接の死因について
一 本判決の結論
 
(1)《証拠省略》によれば、急性心筋梗塞を発症した患者の主要な死因は、心筋梗塞に起因する致死的不整脈(心室細動)であり、殊に急性心筋梗塞の発症早期には不整脈を起こしやすく、心筋梗塞急性期に心停止に至る原因のほとんどは心室細動などの致死的不整脈であって、心室細動の症状は、突然意識を消失し、全身を硬直させたり、痙攣を起こし、脈拍は触知できず、呼吸はあえぐような呼吸を数回する程度で、約1分後にはそれも消失するものであるということが認められる。 

(2)前記第二に認定のとおり、Bは11時30分ころ心筋梗塞を発症し、その3時間後である14時30分ころ容態が急変しているし、その症状も意識喪失状態となり自発呼吸が消失したというものであって、心筋梗塞発症後早期に急変したと評価できるし、一般的にみられるとされる心室細動の症状とも一致する。 

 そして、D医師の鑑定意見書及びE医師の鑑定意見書(以下「E意見書」という。)のいずれにおいても、Bは心室細動に陥った可能性が高いとの意見が述べられている。
 
(3)以上を総合すれば、Bの直接の死因は、急性心筋梗塞の合併症として発症した心室細動であると推認するのが相当である。 

二 A医師の証言 
(1)A医師の証言中には、Bの容態急変時(14時25分ころ)、脈拍を触知したとする部分がある。もし、これが本当だとすれば、その時点で心室細動はなかったことになる。 

(2)しかし、容態急変時に脈があったなどという事実は、平成17年10月12日付陳述書により、事故後2年半を経て初めて明らかにされた事実であって、かくも重要な事実でありながら、それまで、被告の主張中でも明らかにされたことはない。しかも、その後に被告から提出された平成18年10月付のE意見書にあってさえ、その事実は全く考慮されず、「本例はストレッチャーへの移送時に心室細動を合併し、即座に心停止に至った可能性は高い」とされているのである。これらは、いずれも奇妙なことである。 

(3)思うに、A医師は、脳梗塞を合併して容態が急変したと考えたBを、CT室へ連れていこうとする不可解な行動をとっており、容態急変時、かなり動転していたことが明らかであって、その時点で脈を触知したなどというA医師の証言に信頼性を認めることなどできないというべきである。 

三 死因に関する被告の主張について 
 被告は、Bの直接の死因として、心破裂、脳梗塞及び急性大動脈解離の可能性もあると主張するので、これらについて検討する。 
(1)心破裂 
 《証拠省略》によれば、心筋梗塞に伴う心破裂は、梗塞に陥った心筋が壊死から細胞浸潤を起こし筋肉繊維が脆弱化するまで少なくとも8ないし24時間を要し、心筋梗塞発症から3時間という超急性期に心破裂が発症する可能性が乏しいことが認められる。 
 そうすると、心筋梗塞発症(11時30分ころ)の約3時間後(14時25分ころ)に起こった容態急変が心破裂によるとみることは困難である。 

(2)脳梗塞 
ア 《証拠省略》によれば、次の医学的知見が認められる。 
 脳梗塞を含む脳卒中の最大の特徴は、何らかの神経症状が突発することである。脳卒中の神経症状の特徴は、くも膜下出血を除けば片麻痺を代表とする何らかの局在徴候があることで、局在する神経症状を伴わずに意識障害が出現した場合は脳卒中である可能性は低い。また、脳梗塞により突然死を起こすことは極めてまれである。脳血管障害に伴う呼吸不全は、呼吸中枢がダメージを受ける場合で、その場合として小脳・橋・延髄出血、鉤ヘルニアや小脳扁桃ヘルニアによる急性脳幹障害、遠位部椎骨動脈閉塞などによる両側延髄や上位頸髄梗塞などが挙げられる。 

イ 本件証拠上、Bに神経症状が突発したことは認められないし、そもそも、脳梗塞による突然死は極めてまれであるとされているのであって、Bの容態急変が脳梗塞によるとの可能性も乏しいといわざるを得ない。 

(3)急性大動脈解離 
ア 《証拠省略》によれば、次の医学的知見が認められる。 
 急性大動脈解離とは、大動脈の内側の壁が破れることによって起きる病気であり、血管の内膜、中膜及び外膜のうち、内膜及び中膜が破れ、血液が内膜と外膜との間に流れ込む症状をいう。 

 急性大動脈解離の場合、血管の外側の膜は破れることがないから、一瞬で心肺停止に陥り、絶命するということにはならず、発症から死亡までの間に少なくとも1、2時間経過するとされる。 

 急性大動脈解離が発症すると、突然胸から背部に激痛が起こり、解離の進展とともに頸部痛、腰痛、腹痛及び四肢痛と移動するとされる。急性大動脈解離は、発症と同時に特徴的な臨床症状を呈し、ほとんどの例で突発的な疼痛を訴え、通常その疼痛は激痛である。患者の顔面は蒼白で、冷汗、頻脈、呼吸促迫を示し、ショック状にみえるが、多くの場合、血圧が高い。 

 心筋梗塞等の心筋虚血に伴う胸痛が圧迫感、絞扼感と表現されるのに対し、急性大動脈解離の胸背部痛は裂けるような痛みとされる。 

イ しかしながら、証拠上、Bに、突発的な激痛があらわれた事実などは何ら認められないのであって、そのような事実はなかったとみるのが相当であるから、急性大動脈解離が生じたときにみられるとされる症状はなかったことになる。また、Bは、急変後、すぐに自発呼吸が停止し、心停止に陥っているところ、急性大動脈解離ではすぐに心肺停止に至ることはないとされているから、この点においてもBの容態急変が急性大動脈解離によるとすることはできない。 

(4)以上のとおりであって、Bが、心破裂、脳梗塞又は急性大動脈解離のいずれかに陥ったために死亡したとみることは困難で、その可能性は乏しいといわざるを得ない。 


以上:2,458文字

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