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転送義務に関する平成13年10月16日東京高裁判決紹介1

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平成24年 4月23日(月):初稿
○当事務所で取り扱っている医療過誤事件の参考判例として平成13年10月16日東京高裁判決(判時1792号74頁)を掲載します。桐HPB1レコード制限文字数の関係で、先ず裁判所判断前半部分までです。

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主  文

1 一審被告の本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は、一審原告Bに対し、225万円及びこれに対する平成3年12月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2) 一審被告は、一審原告C及び同Dに対し、それぞれ112万5000円及びこれに対する平成3年12月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3) 一審原告らのその余の請求を棄却する。
2 一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを10分し、その1を一審被告の負担とし、その余を一審原告らの負担とする。
4 この判決は、1の(1) 、(2) に限り、仮に執行することができる。

   事実及び理由

第1 控訴の趣旨
(一審被告)
1 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記部分に係る一審原告らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。

(一審原告ら)
【第1次的請求】

1 原判決を次のとおり変更する。
(1)  一審被告は、一審原告Bに対し、5134万4722円及びこれに対する昭和62年6月24日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2)  一審被告は、一審原告C及び同Dに対し、それぞれ3067万2361円及びこれに対する昭和62年6月24日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、一審被告の負担とする。
3 仮執行宣言

【第2次的請求】
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)  一審被告は、一審原告Bに対し、5134万4722円及びこれに対する平成3年12月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2)  一審被告は、一審原告C及び同Dに対し、それぞれ3067万2361円及びこれに対する平成3年12月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、一審被告の負担とする。
3 仮執行宣言

第2 事案の概要
 次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 一審原告らの当審における因果関係についての主張
 一審被告は、平成3年11月27日、Eの病態(脳ヘルニアの切迫)について緊急性の判断を誤り、直ちにEを外科的治療法が可能である他の専門医療機関に転送しなければならないのにこれを怠った。当時、Yメディカルセンター病院にはベッドの空きがあり、Eが同病院に転送されれば、速やかに腫瘍摘出手術が行われ、仮に頭蓋内圧亢進によって摘出手術までに脳ヘルニアに至る危険性があると判断されれば、脳室ドレナージを行い、頭蓋内圧の減圧を図ってから摘出手術が行われた。これらの施術によりEは高度の確率で救命されたはずである。したがって、一審被告の注意義務違反とEの死亡との間には相当因果関係が肯定されるべきである。

2 一審被告の当審における因果関係についての主張
 一審被告にEの病態(脳ヘルニアの切迫)についての緊急性の判断に誤りがあったとしても、Eの腫瘍は脳幹部に近接した位置に生じた悪性巨大腫瘍であったため、これを摘除して完治せしめ得る可能性は極めて乏しく、救命の可能性はほとんどなかった。したがって、一審被告の注意義務違反とEの死亡との間には相当因果関係がない。

第3 当裁判所の判断
1 昭和62年6月24日の診療における過失について

 上記時点での一審被告の判断及び診療行為につき過失があったことを認めるに足りる証拠はない。

2 平成3年11月27日以降の診療における過失について
(1) Eの脳腫瘍の発生部位及び形状

 昭和62年6月24日撮影のCT画像(乙3の〈1〉、〈2〉)、平成3年11月27日撮影のCT画像(乙4の〈1〉、〈2〉)、同月28日撮影のMRI画像(乙6の〈1〉~〈5〉)、同月29日撮影のCT画像(乙5の〈1〉、〈2〉)、F作成の鑑定意見書(乙23の〈1〉、〈2〉。以下「F意見書」という。)、Gの鑑定意見書(甲31、32。以下「G意見書」という。)、鑑定人Iの鑑定結果(以下「I鑑定」という。)によれば、昭和62年6月24日当時、Eの第4脳室はほぼ正中にあり、腫瘍などにより圧排され変形されることはなく、ほぼ正常の形態を保っていたが、4年4月後の平成3年11月27日には、Eの後頭蓋窩の後錐体縁から天幕にかけて最大径が約4cmの大きな腫瘍が存在し、腫瘍周辺部の脳組織に浮腫をきたし、第4脳室は圧迫されて左に偏位し、第3脳室及び側脳室は脳室拡大していたこと、Eの腫瘍を悪性とみるか良性とみるかはともかくとして、Eの腫瘍は4年4月の間に急速に増大していたこと等が認められる。

(2)大後頭孔ヘルニア(小脳扁桃ヘルニア)の発生
 Eは、平成3年11月27日午後5時ころ、頭痛、吐気を訴えて一審被告診療所を訪れた。一審被告は、直ちに頭部CTを撮影し、その結果から、後頭蓋窩に大きな腫瘍が存在すること、第3脳室と測脳室が拡大していること、第4脳室が小さくなって左に偏位していることを確認し、腫瘍摘出手術を行うことができる他の医療機関への転送が必要であると判断し、附属病院に転入院を依頼し、定時入院として1週間後に転院させること、それまで一審被告診療所において脱水剤(脳圧下降剤)であるグリセオールを投与しながら待機させることを決定した。

 Eは、附属病院への転院待機中、一審被告診療所において27日午後6時30分ころから30日午前4時30分ころまでの間に合計約4000ミリリットルのグリセオールの投与を受けていたが、30日午前8時ころ心停止・呼吸停止の状態となった。これは、グリセオールの投与によっても脳内圧の亢進を防ぐことができず、脳内圧の亢進により大後頭孔に小脳扁桃が嵌入し(大後頭孔ヘルニア)、延髄が圧迫されて呼吸機能・心臓機能が破壊されたために生じたものである。

(3)大後頭孔ヘルニア(以下「脳ヘルニア」という。)が起きる危険性についての一審被告の判断
 一審被告は、平成3年11月27日に附属病院にEの転入院を依頼した際、緊急入院の要否を聞かれて、必要ない旨回答し、翌28日に附属病院のH医師(講師)から再度緊急入院の要否を確認されて、「緊急入院の必要な状況ではなく、定時入院の範囲でできるだけ早く」と回答している。このことからすると、一審被告は、Eの病態につき、腫瘍摘出手術を行うことができる病院に転送しなければならない状態であるとは判断したものの、グリセオールの投与により1週間程転院を待っていてもその間に脳ヘルニアを起こすことはないだろうとの判断のもとに、緊急転院の必要性を認めず、1週間程後の転院でよいと判断していたことが認められる。

 しかし、Eの腫瘍は4年4月の間に急速に増大して最大径が約4cmに達していたのであり、F意見書、G意見書、証人J及び同Fの証言(以下「J証言、F証言」という。)によれば、このような腫瘍が前記(1) の部位に脳浮腫をともなって存在する場合には、
〈1〉腫瘍周辺の浮腫を含めた腫瘍による脳ヘルニアの発生、
〈2〉急性水頭症による脳ヘルニアの発生、
〈3〉腫瘍からの出血による脳ヘルニアの発生等
により患者の病態が急変する可能性、すなわち、グリセオールを投与しても脳内圧をコントロールできずに脳内圧の亢進により脳ヘルニアが起きる危険性が高く、脳ヘルニアがいつ起こってもおかしくはないのであって、したがって、グリセオールを投与していれば1週間転院を待っている間に脳ヘルニアを起こすことはないと判断すべき根拠はないことが認められる。

 以上によれば、一審被告は、Eが脳ヘルニアを起こす危険性について、グリセオールの投与をしていても数日中に脳ヘルニアが起きてしまう危険性があると判断すべきであったのに、この危険性がないものと判断し、Eを転院させるべき緊急性についての判断を誤ったものであり、一審被告にはこの点について過失があるというべきである。
以上:3,439文字

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