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無断録音された録音テープの証拠能力-厳しい判例紹介

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平成24年 3月10日(土):初稿
○「無断録音された録音テープの証拠能力-原則」では、昭和52年7月15日東京高裁判決(判例時報867号60頁)の考え方「話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当つては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当」との考え方を紹介しておりました。

○この東京高裁判決は、酒席における発言供述を無断で録音したことは、人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害したものということはできないとして証拠能力を認めていますが、それより古い判例で、無断録音について厳しい評価をした判例として、昭和46年11月8日大分地裁判決(判時656号82頁)がありますので全文紹介します。

○この判例は、相手方の同意なしに対話を録音することは、公益を保護するため或いは著しく優越する正当利益を擁護するためなど特段の事情のない限り、相手方の人格権を侵害する不法な行為と言うべきして、原則違法で証拠能力も認められないとしています。

○前記高裁判例は、話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかとしながらも、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められる場合に証拠能力を否定すべきとして、原則は証拠能力があるが、録音の手段方法が著しく反社会的と認められる場合に否定すべきと、原則と例外が、逆転しています。私は、大分地裁判決は厳格過ぎると考えており、東京高裁判決を支持します。

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主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実
第一、請求の趣旨

一、原告の被告らに対する昭和39年10月30日の消費貸借契約に基づく金480万円の債務の存在しないことを確認する。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。

第二、請求の趣旨に対する答弁
 主文と同旨
 ≪以下事実省略≫
 
理由
一、原告が被告らより昭和39年10月30日金員を借り受けた事実および原告がすでに被告らに224万円を越える金員を支払っている事実はいずれも当事者間に争いがないが、その貸借金額について争いがあるので、この点につき判断することとする。
 ≪証拠省略≫によると、以下の事実が認められる。

(一)被告Aは、以前山口県長門市において呉服商を営んでいたが、昭和39年初め頃経営不振のためこれを廃業し、残存した資産を整理したうえ、自己の療術営業の免許を生かして別府で電気治療を業とするため昭和39年9月末頃別府に至り、原告の経営する旅館○○に投宿し、そのまま被告Bと共に現在も居住している。

 被告らは、原告に対し前記資産整理の際手許に残った600万円で別府において電気治療を営めるような土地、家屋を求めている旨相談したところ、原告は、自己の所有する旅館○○をこの際増改築したいので、被告らよりそのための資金的援助が得られれば、右増改築が完成したうえは二階二間を被告らに提供するとの話を被告らにもちかけた。

(二)右話合いの結果、被告らは原告の右申し入れに同意すると共に、当時原告は別府信用金庫に50万円の貸金債務がありその担保として旅館○○の土地建物に抵当権を設定しているので、右担保をぬくため被告らは原告に対し昭和39年10月29日○○二階二間の昭和39年10月29日以降10年間の前家賃(電気代、水道代、入浴使用権を含む)として金60万円を手渡した。

 そして、更に翌30日、被告らは原告に対し金480万円を、その主張の如き約定の下に貸付け、右貸金債権担保のため原告所有の浄心館の土地、建物に抵当権の設定を受けたものである。

二、この点につき原告は、被告らより借り受けた金額が140万円である旨主張し、証人C、同Dおよび原告本人はこれに符合する供述をなすと共に、証人Cおよび原告本人は、原告が現実に借り入れた金額以上の虚偽の借用証、領収証をさし入れたのは、被告らの税金対策のためとの要求に応じたものである旨供述している。

 しかし、原告が虚偽文書と別に、格別念書もとらずに、現実に借り受けた金額140万円を340万円も上まわる480万円の借用証書、領収証を差し入れるに止まらず、原告所有の土地建物に右超過する340万円については全く架空の貸金債務を担保するため抵当権を設定することは、原告所有の唯一の土地、建物の剰余担保価値を著しく低減させるもので、原告の資産状態、資金需要等を考え合わせると、原告が被告らの前記要求に応じて虚偽の≪証拠省略≫を作成した、との証人C、原告本人の各供述は一般経験則に照らし措信し難い。

 又証人Cは、前記乙第八号証(確認書)が成立に争いのない乙第一号証の60万円の抵当権設定登記と乙第四号証の480万円のそれとが重複しているので、右60万円の登記を抹消してもらった際に被告らの要求に応じて作成されたものである旨供述しているが、60万円の抵当権設定登記の重複を問題としながら、より大きい前記(原告の主張によれば超過した架空の)480万円の登記を放置して乙第八号証を作成することは通常考えられないことであり、従って、右供述は措信できず乙第八号証の証明力を減殺するものではない。

 そして、原告の貸借金額が140万円であるとの前記主張に添うかの如き≪証拠省略≫も、未だ原告の右主張事実を認めさせるに充分でなく、他にこれを認むべき証拠もない。

三、又、証人Cの証言中、本件貸金に利率の定めはないが、被告の主張する貸金480万円の内金200万円が原告が現実に受領した元金で、その余の280万円は本来利子として支払われるべきものであるかの如き趣旨の供述部分があるけれども、右の如く前家賃として原告が受領している60万円を元金に附加することは、原告が被告らに対し右残金280万円と家賃相当額(10年間の家賃を免除する形で)を元金200万円の利子として支払うこととなり、右のような高利を支払い、なお且つ、原告所有の不動産である本件土地建物に利息を含んだ480万円の債務を担保するため抵当権を設定することは通常の金融取引の常識に反するもので、右供述も措信し難い。

四、なお、甲第四号証(録音録取書)については、≪証拠省略≫によると、原告が対話の相手方である被告Bの同意を得ずに秘かに録音したテープの録音書である事実が窺われる。

 右の如く、相手方の同意なしに対話を録音することは、公益を保護するため或いは著しく優越する正当利益を擁護するためなど特段の事情のない限り、相手方の人格権を侵害する不法な行為と言うべきであり、民事事件の一方の当事者の証拠固めというような私的利益のみでは未だ一般的にこれを正当化することはできない。

 従って、対話の相手方の同意のない無断録音テープは不法手段で収集された証拠と言うべきで、法廷においてこれを証拠として許容することは訴訟法上の信義則、公正の原則に反するものと解すべきである。

 一方、このような無断録音による人格権の侵害は不法行為に基づく損害賠償などで解決すれば足り、無断録音テープの証拠能力には影響を及ぼさないとの立場も考えられないわけではないが、反面右損害賠償の義務を甘受することと引換えに、不法な手段で獲得した録音テープを法廷に提出することを訴訟当事者の自由に任せ、これを全て証拠として許容することは無断録音による右人格権侵害の不法行為を徒らに誘発する弊害をもたらすと共に、法廷における公正の原則にも背馳するものと言わなければならない。

 右の理由から、前認定の如く被告Bの同意を得ずして原告により秘かに録音されたものであることの明らかな甲第四号証の録音録取書は証拠として採用し難い。

五、よって、他に、原告が被告らより昭和39年10月30日金480万円を借り受けたとの前認定事実をくつがえすに足りる証拠がない以上、原告の被告らに対する本訴請求は失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 阿部功)
以上:3,323文字

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