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ある交通事故事件の顛末-心因性減額の攻防

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平成22年10月 9日:初稿
○「ある交通事故事件の顛末-鑑定の顛末」の続きです。Aさんは、交通事故で右眼を強打し、その後、1.0あった視力が0.05まで低下し、大工の仕事が出来なくなりましたが、予想外に自賠責で視力低下と事故との因果関係を否認され、視力低下についての後遺障害は認定されず、少なくとも後遺障害第9級に相当するとして訴えを提起していました。被告側保険会社との間で熾烈な争いが展開されていましたが、裁判所による鑑定で、「視力低下・視野狭窄が存在するが、その原因は心因性」との、正に痛し痒しの結果が出されました。

○この「心因性」との鑑定結果に保険会社側は、正に我が意を得たりと「心因性減額」を強く主張し、実質被告である保険会社が所持している判例時報・判例タイムズ等の有名判例雑誌には掲載されていない5割から8割程度心因性減額をした判決書全文を10件以上証拠として提出してきました。

○そこで私は、司法試験受験生のアルバイト事務員に対し、その全ての心因性減額判例全文を精査した上で,①判決要旨、②事案概要-事故態様、傷害内容・程度等、③本件事案との差異-参考にならない根拠をレポートするように指示し、事務員は長時間かけて判決内容を検討して,詳細なレポートを上げてきました。

○そのレポートを見ると保険会社提出心因性大幅減額事案はいずれも本件とは、事故態様、傷害部位、視力低下発生経緯等が相当異なっており、むしろ、本件事案は心因性減額をすべきでないとの根拠判例に使えるもので、保険会社の意図に反して,Aさんにとって有り難い判例と確信しました。そこで、私は、被告保険会社提出判決全文の一つ一つの要点を明確に記載し,本件との違いを強調し、これらの判例からも、本件事案では心因性減額をすべきでないと強力に主張する長文の準備書面を提出しました。
以下、その準備書面の一部を公開します。

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8 丙12号証:東京高裁平成4年4月27日判決
(1)判決要旨
 1審では9級に相当する視野狭窄、調節力低下の後遺障害で35%の労働応力喪失率で逸失利益を認めるも、控訴審では、右視力障害は被害者の神経的な要因(心因性)によるものと14級相当と変更して逸失利益を認めた。

(2)事案の概要
 控訴人は、控訴人所有の加害車を運転し、パチンコ店北西出入口から西南出入口方向に向け時速25kmで進行していたところ、西南出入口では、同出入口から進入している車両に対する見通しが悪かったのに同出入口から進入してくる車両はないものと思い込み、進路前方の安全確認をしないでそのまま進入し、折から同西南出入口から時速約10ないし15kmで右駐車場に進入してきた被控訴人運転の原動機付自転車に加害車の右側面部を衝突させて被控訴人に左肋骨骨折、左肺血気胸、全身打撲等の傷害を負わせた。
 
(3)本件との差異と全く参考にならない根拠
①被害者の受けた傷害は左側肋骨骨折、左肺血気胸、全身打撲であり、眼部周辺に外傷はない。
②従って当然眼科初診時に外傷性視神経損傷との診断はなく、視野調節障害を訴え治療中と診断されたのは、事故後7ヶ月も経た時期である。
③鑑定時の被害者の視力は右眼0.1、左眼0.07、近方視力は右眼0.05,左眼0.04であったものの、右検査の近方視力測定値が本来の視力であると判定する根拠はない。
④視力の低下にもかかわらず、被害者が眼科の受診もせず、「視力は0.04と以前の値のほぼ10分の1になっているのに、治療しないのですか」との質問に対しても「自分、悪ければ悪いように・・・生活している」と不明確な返答をしている。また、視力の低下があるという検査結果にも拘わらず、問題なく行動している。
⑤静岡県立総合病院眼科における測定値と比較して、強度の求心性視野狭窄を示したのに被害者は視野狭窄を全く訴えておらず、測定値の信憑性には強い疑問が残るとされている。
⑥TMC検査の結果は全色盲または詐病、石原・大熊式検査の結果は全色盲・全色弱とされたが、被控訴人は色覚の異常を全く訴えておらず、かえって診察室にある赤・緑視標及び赤・青の電灯の色は判別できるとする理解困難な返答をしている。
 以上の通りこの事案の被害者は、視力障害を訴えながら、鑑定医に不信感を持たれるほど、その障害があるとは思えない行動を繰り返し、さらに眼科を受診して真摯に症状改善の努力もしていなかった。これに対し本件原告は、何とか改善したいとの一心で5ヶ月間以上通院し、主治医から外傷性視神経症として治癒見込み無しとの断定を受け、治療を断念したものであり、この事案は本件には全く参考にならない。

二 本件は心因性減額が不要な事例
1 被告ら提出丙5~12の判決概要から判ること

 以上のとおり、前一項で被告ら提出丙5~12の判決(以下、被告ら提出判決と言う)事案は、本件とは殆どが全く事案を異にして、参考にならず、むしろこれらの裁判例から、本件事案での原告の障害に場合は、心因性減額が適当ではないことが明らかになった。
 その理由は、被告ら提出判決の事案はいずれもが障害を残した眼球及びその周辺に傷害はなかった事案であり、且つ、本件のように主治医が外傷性視神経症と断定的診断を下したものが一例もないことである。詐病ではない心因性の視力障害と認めながら、4割、5割程度の心因性減額を認めた事案は、本件とは異なり、眼球近辺の傷害はなく、本件のように直接診察・治療に当たった主治医から外傷性神経症との断定的診断を受けたものではなく、且つ何より将来の回復の兆しが見られることから、4乃至5割の心因性減額がなされている。
 これに対し本件は、直接診察・治療に当たった主治医から外傷性神経症との断定的診断を受け、且つ将来の治癒の見込みもないと断言され、実際、現時点においても症状は全く変わらない。従って、被告ら提出判決との比較において、本件では心因性減額をすることは全く適切ではないことが明らかとなった。

2 仮に心因性でも交通事故との因果関係は明白で心因性減額も不要
 原告提出甲47仙台地裁平成11年5月31日判決では、「被害者の精神的脆弱性を背景に加害者への不満や訴訟及び社会への依存といった様々な心理的要因が、心因性の身体表現疼痛障害を引き起こしたためであると認めるのが相当」と明白に「心因性」を断定しながら、「被害者の症状のうち外傷性頸部症候群の症状と本件事故との間に因果関係があることは当然であり、その後の心因性の疼痛についても本件事故による受傷を契機として発現したものであるから、症状固定時までに生じた症状については、本件事故との因果関係は否定できない。」と明らかな心因性疼痛と交通事故との因果関係を認めている。
 その上で心因性の疼痛による損害については認定損害額の20%を心因性減額しているが、これほど心因性が明白な事案で、心因性減額率が20%に過ぎない。原告の場合、仮に心因性としても減額は適当でないことが明白である。仮に心因性としても、原告には、この判決が示すような本人の「精神的脆弱性」はなく、その心因性の原因は本件事故による衝撃以外にあり得ないからである。


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