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算定表上限2000万円超過年収の義務者婚姻費用を算定した判例紹介

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平成30年10月12日(金):初稿
○別居中の夫婦間において、妻である相手方が、夫である抗告人に対し、毎月相当額の婚姻費用の支払を求める事案について、いわゆる標準算定方式を前提としつつ、義務者の年収がいわゆる算定表の上限額である2000万円を相当程度超えている場合において、基礎収入を算定するに当たっては、税金及び社会保険料の各実額、職業費並びに特別経費に加え、貯蓄分を控除すべきであるとした平成28年9月14日東京高裁決定(判タ1436号113頁)全文を紹介します。

○抗告人夫の平成26年年収は、給与収入2050万円、不動産収入474万円、配当収入1038万円合計3562万円(いずれも経費を控除した後の所得金額)のところ、相手方妻の平成26年年収は75万円程度でした。婚姻費用は、ほぼ裁判所が作成した算定表で決められますが、その上限は2000万円で3562万円となると算定表に記載がありません。

○この東京高裁決定では、「(抗告人の)職業費及び特別経費の合計額は1391万5750円(3939万9067円×(職業費18.92%+特別経費16.40%)),考慮すべき貯蓄分は181万3682円((3939万9067円-1348万9317円)×0.07)となり,税金及び社会保険料の実額は1348万9317円であるから,これらを抗告人の給与収入総額3939万9067円から控除すると,抗告人の基礎収入は,1018万0318円となる。」として婚姻費用月額20万円としました。感覚的には、随分少ないと感じます。

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主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
(1)抗告人は,相手方に対し175万円を支払え。
(2)抗告人は,相手方に対し,平成28年×月から抗告人及び相手方が別居を解消し又は離婚するまで,毎月×日限り,月額20万円を支払え。
2 手続費用及び抗告費用は各自の負担とする。 

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨及び理由は,抗告状及び抗告理由書に記載のとおりである。

第2 事案の概要
本件は,相手方が抗告人に対し,毎月相当額の婚姻費用の支払を求める事案である。
相手方は,平成27年×月×日,東京家庭裁判所に対し,抗告人に婚姻費用の分担として毎月相当額の支払を求めるとの調停を申し立てた(同裁判所平成27年(家イ)第××号)が,平成28年×月×日,同調停は不成立で終了し,審判手続に移行した。
原審は,抗告人に対し,婚姻費用分担金として,平成27年×月から平成28年×月までの未払分130万5000円及び同年×月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで毎月×日限り22万円を相手方に支払うことを命ずる審判をした。
これに対し,抗告人が,抗告人により有利な審判に代わる裁判をすることを求めて抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)婚姻,別居等

ア 抗告人(昭和37年×月×日生)と相手方(昭和39年×月×日生)は,平成3年×月×日に婚姻し,平成5年×月×日に長女であるC(以下「長女」という。),平成7年×月×日に長男であるD(以下「長男」という。)が出生した。
イ 抗告人及び長男は,平成26年×月,相手方肩書住所地の家(以下「相手方宅」という。)を出て,抗告人肩書住所地の賃貸物件(以下「抗告人宅」という。)に居住するようになり,相手方と別居した。
ウ 長女は,同年×月,相手方宅を出て抗告人宅に居住するようになり,相手方と別居した。
エ 長女は,平成27年初め頃から,抗告人宅を出て,一人暮らしをするようになった。

(2)生活状況等
ア 相手方
(ア)相手方は,相手方宅に単身居住している。
(イ)相手方は,平成26年は75万4113円の収入を得た。

イ 抗告人
(ア)抗告人は,抗告人宅に私立大学に通う長男とともに居住しているほか,一人暮らしをしている私立大学に通う長女の生活費を負担している。
(イ)抗告人は,平成26年は,給与収入として2050万円を得たほか,不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし,いずれも経費を控除した後の所得金額)を得た。そして,抗告人は,社会保険料として170万9804円,所得税及び復興特別所得税として888万8213円,平成26年中の所得に係る平成27年度の住民税として289万1300円をそれぞれ支払った。
(ウ)抗告人は,長女の大学の費用として,平成26年度に,授業料年額72万円,施設費年額30万円,長男の大学の学費として年額123万4500円を負担した。

(3)支払抗告人は,平成27年×月以降平成28年×月までの間に,申立人に対し,月額7万5000円ずつ,合計105万円を支払った。

2 婚姻費用の算定等
(1)相手方は,平成26年に75万4113円の給与収入を得ており,平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる。これに収入額に応じた基礎収入率(42%)を乗じて基礎収入を算定すると,31万6727円(小数点以下切捨て。以下,同じ。)となる。
(2)他方,抗告人は,平成26年に給与収入として2050万円を得たほか,不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし,いずれも経費を控除した後の所得金額)を得ており,平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる。この不動産収入及び配当収入を0.8(1-職業費の割合0.2)で除して給与収入に換算すると1889万9067円となり,抗告人の給与収入総額は3939万9067円となる。
 この額は,いわゆる標準算定表(判例タイムズ1111号285頁参照)の義務者の年収の上限額2000万円を大幅に超えていることに鑑み,抗告人の基礎収入を算定するに当たっては,税金及び社会保険料の実額(1348万9317円)を控除し,さらに,職業費,特別経費及び貯蓄分を控除すべきである。

(3)この点,相手方は,収入が増加するほど収入に占める職業費及び特別経費の割合が低下する旨主張する。また,相手方は,いわゆる標準算定方式は,年収2000万円以下の者でも一定程度の貯蓄をしていることを前提に制度設計されており,抗告人についても標準算定方式を準用して基礎収入を算定すれば足りるのであって,平均貯蓄額のような曖昧な概念を持ち出すべきではないとか,貯蓄率の考慮は必須なものではないとか,仮に年収2000万円程度の者の平均的な貯蓄額と年収3900万円程度の者の平均的な貯蓄額との差額を考慮するのであれば,年収1500万円の者の貯蓄率31.7%とそれ以上の年収の者の貯蓄率31.9%との差額である0.2%にとどめるべきであるとかとも主張する。

他方で,抗告人は,標準算定方式は年収2000万円を基準としてそこまでは貯蓄考慮を一律行わないという政策的な取扱いをしているだけであって,これを超える場合には差額にとどめず純粋に貯蓄率を反映させるべきであり,家計調査年報の,総世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,全収入の平均で21.4%であることからこの割合が控除されるべきであるとか,仮に差額のみを考慮するものとしても,家計調査年報の,二人以上の世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,年収1500万円以上が31.9%,1500万円未満の各収入の貯蓄率の平均値が16%であることから,その差額の15.9%が控除されるべきであるとかと主張する。

(4)この点,職業費については,抗告人の場合と年収2000万円以下の場合とでその占める割合が大きく変わるとは考えられないから収入比18.92%とすべきである。他方で,特別経費については,一般に高額所得者の方が収入に占める割合が小さくなり,その分貯蓄や資産形成に回る分が増える傾向にあると考えられる。そして,年収2000万円以下の者でも相応の貯蓄はしているはずであり,抗告人のこれまでの貯蓄額が判然としない本件事案においては,抗告人についてのみ純粋に平均的な貯蓄額の満額を控除すべきではなく,標準算定表の上限である年収2000万円程度の者の平均的な貯蓄額との差額のみを考慮すべきである(標準算定方式では,特別経費について年収1500万円以上の者について収入比16.40%との前提に立っているが,年収2000万円程度の場合でも同様の収入比に立っており,この中に貯蓄的要素を既に加味しているともいえる。)。

もっとも,本件では,年収2000万円程度の者の貯蓄額と3900万円程度の者の貯蓄額との比較ができる有意な資料がないことから,その差額について推認するほかないところ,抗告人が引用する家計調査年報の,総世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率は,年収1018万円以上が27.3%,全収入の平均が21.4%であること,二人以上の世帯のうち勤労者世帯の貯蓄率が,年収1500万円以上が31.9%,全収入の平均が19.8%であること,その他本件に現れた一切の事情を考慮して,特別経費については年収1500万円以上の者の収入比とされる16.40%とするとともに,抗告人について,総収入から税金及び社会保険料を控除した可処分所得の7%分を相当な貯蓄分と定めることとする。

(5)そうすると,職業費及び特別経費の合計額は1391万5750円(3939万9067円×(職業費18.92%+特別経費16.40%)),考慮すべき貯蓄分は181万3682円((3939万9067円-1348万9317円)×0.07)となり,税金及び社会保険料の実額は1348万9317円であるから,これらを抗告人の給与収入総額3939万9067円から控除すると,抗告人の基礎収入は,1018万0318円となる。

 そして,標準算定方式により婚姻費用分担額を算定すると,{(31万6727円+1018万0318円)×100
(100+100+90+90)-31万6727円}÷12≒20万3804円となる。

(6)抗告人は,平成26年度に長女の大学の授業料等として102万円,長男の大学の学費として123万4500円を負担した(合計額は225万4500円)ところ,標準算定方式が前提とする学校教育費の平均額の2人分合計約66万円は標準算定方式において考慮されているから,当該考慮済みの額を控除した残額を,抗告人と相手方が,基礎収入の比により負担すべきこととなる。そうすると,相手方が負担すべき金額は,月額4000円弱となる。

(7)以上を含め本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,抗告人が相手方に支払うべき婚姻費用は,月額20万円とするのが相当である。

(8)そうすると,抗告人が分担すべき婚姻費用は,平成27年×月(調停申立時)以降平成28年×月までの間で,合計280万円(20万円×14か月)となるところ,抗告人は,上記期間において,合計105万円を支払ったことから,これを控除すると,175万円となる。

(9)抗告人は,抗告人と相手方との間には,長女誕生後別居を経て現在に至るまで,相手方への固有の配分額が月額10万円程度を下回らなければ異存がない旨の合意があった旨主張する。しかし,上記の内容とする旨の明示の意思表示があったとの抗告人の主張はないところ,抗告人によれば,抗告人は,別居開始後数か月間,相手方に月額20万円を支払っていたのであり,その後一方的に10万円に減額したにすぎないのであるから,従前の抗告人の支払状況に鑑みれば,黙示の合意が成立するとはいえず,ほかに黙示の合意が成立したことを認めるに足りる資料はない。

3 結論
 以上によれば,抗告人は,相手方に対し,婚姻費用分担金として,平成27年×月(調停申立時)から平成28年×月までの280万円(20万円×14か月)から既払金105万円を控除した175万円,同年×月から抗告人と相手方が別居を解消し又は離婚するまで毎月20万円を支払う義務がある。
 よって,原審判は失当であるから,原審判を変更することとして,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 山田俊雄 裁判官 鈴木順子 裁判官 菊池章) 
以上:4,958文字

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