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別居期間3年5ヶ月でも婚姻破綻を認めなかった裁判例紹介(一審)

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平成29年 4月 6日:初稿
○原告が,夫である被告に対し,被告の暴言暴力等により全般性不安障害に陥り,別居に至ったことで婚姻を継続し難い重大な事由があるとして,子の親権者を原告と定めた離婚並びに養育費及び慰謝料の各支払を求めたのに対し、原告が婚姻関係の破綻原因と主張する事実は,性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いに端を発するもので,被告のみが責めを負うものではなく,約10年の同居期間に比べ別居期間は約3年5か月と短く,双方の婚姻関係は,原告の治療を優先に進めながら,相互理解の努力を真摯に続けることなどにより未だ修復の可能性がないとはいえず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとまでは認められないとして請求を棄却した平成27年1月20日東京家庭裁判所立川支部判決(判タ1432号99頁<参考収録・原審>)全文を紹介します。


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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告との間の長男C(平成14年□月□日生。以下「長男」という。)の親権者を原告と定める。
3 被告は,原告に対し,長男の養育費として,本判決確定の日から長男が22歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り,月額8万円を支払え。
4 被告は,原告に対し,慰謝料として500万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の概要

 本件は,原告が,夫である被告に対し,原告と被告の婚姻関係は,被告の暴言暴力やモラルハラスメントにより原告が全般性不安障害に陥り,別居に至ったことから破綻しており,婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があるとして,未成年者である長男の親権者を原告と定めて離婚すること並びに養育費及び慰謝料の各支払を求めたところ,被告が,破綻を否認し,離婚を争った事案である。

2 前提事実(後継の証拠(枝番含む。以下同じ。)により認められる)
(1) 原告(昭和44年□月□日生)と被告(昭和52年□□月□□日生)は,平成14年□月□日に婚姻の届出をした夫婦であり,原告と被告の間には長男C(平成14年□月□日生 以下「長男」という。)が出生した(甲4)。
(2) 原告は,平成23年□月,長男と共に被告との住居を出て,以後現在まで,被告とは別居(以下「本件別居」という。)をしている(甲1)。
(3) 原告が当庁に申し立てた夫婦関係調整調停申立事件(平成25年(家イ)第□□□号 以下「別件離婚調停」という。)は,平成25年□月□□日,調停不成立により終了した(甲5)。
(4) 原告が当庁に申し立てた婚姻費用分担申立事件(平成25年(家)第□□□□号 抗告審・東京高等裁判所平成25年(ラ)第□□□□号 以下「別件婚費分担審判」という。)は,被告に対し,未払婚姻費用35万円と平成25年□□月以降月額5万円の婚姻費用の支払いを命じた(甲7,8)。

3 当事者の主張の要旨
(1) 離婚請求及び慰謝料について
(原告)

 被告は,婚姻当初から,思い通りにならないと,原告や長男を無視し,暴言暴力(物を投げつけるなど)に及んだ。被告は,長男が生まれてすぐに原告に働くことを強要し,自らは家事育児を手伝わないのに,掃除洗濯の方法などを事細かく指示し,原告のやり方が気に入らないと大声で怒鳴りつけるので,原告は,被告に話し合いを求めたが無視された。原告は,精神的に不安定となり,平成20年□月頃には激しいめまいと吐き気で救急搬送されたが,被告が入院を断ったため帰宅を余儀なくされ,体調不良の中家事をさせられた。また,被告は,長男が所在不明になった時にも原告に押しつけて放置した。これら被告の行為(モラルハラスメント)により,原告は,しばしば動悸,めまい,頭痛や吐き気に襲われ,現在,全般性不安障害と診断されている。原告は,被告とは別居しているが,被告は,別件婚費分担審判にもかかわらず婚姻費用を支払わない。以上からすれば,原告と被告との婚姻関係は破綻していて,原告の精神的苦痛を慰謝するには500万円を要する。

(被告)
 被告が物を叩いたり,原告と言い合いになったりしたことはあったが,言い過ぎた時などは謝っていたし,暴言や暴力はなく,むしろ原告から激しく怒鳴られたりした。仕事も原告が働きたがっていたので育児ストレスも解消できると賛成したにすぎず,家事の内容を事細かに指示,注意したことも,原告の入院を断ったこともない。また,被告は,揉め事が多い夫婦関係に悩み疲弊していたときに,長男が所在不明になったと聞いて,どうしたら良いか分からなくなっただけで,家族を大切に思っている。婚姻費用については,別居時に預金300万円位を原告が持ち出してしまい,被告には自宅ローンなどの返済もあることから,支払いが遅れている。なお,原告が全般性不安障害に陥ったのは,被告との関係からだけではない。被告は,従前,全般性不安障害についての理解が不足し,原告との接し方を間違えてきたことを深く反省している。今後は,その理解に一層務め,専門家の意見も踏まえながら夫婦共に治療に努力し(夫婦カウンセリングも必要かと思う),子供のためにも,何年もかかるかもしれないが,もう一度家族3人の生活を取り戻したい。本件別居は,被告が,原告の治療に少しでも役立てばと黙認しているにすぎず,原告と被告の婚姻関係は破綻していない。したがって,原告には慰謝料も当然発生しない。

(2) 親権者の指定について
(原告

 長男は,別居後現在まで原告と同居しており,被告を怖がっている。学校生活も安定し,問題なく生育しているから,原告を親権者とすべきである。

(被告)
 原告の主張は争う。被告は,長男と定期的に面会交流していて,長男が怖がっている様子はない。また,同居中も,長男の出生時から育児に参加してきた。

第3 当裁判所の判断
1 本件の経緯

 前提事実,証拠(甲2,7ないし9,11,12,乙5,原告,被告)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができる。
(1) 原告と被告は,平成12年頃知り合い,平成14年□月□日に婚姻の届出をした。原告は,結婚を機に専業主婦となり,被告の実家で新婚生活を始めて,同年□月には長男が誕生した。

(2) 原告と被告は,被告の大工見習いが終わったのを機に,2人で探したアパート(被告が勝手に契約したと認めるに足りる証拠はない。)に,親子3人で転居することとした。被告は,出産後の原告や生後間もない長男の身体を考えて,転居前の掃除などは自分がするから終わるまで来ないようにと原告に伝えた。しかし,原告が,連絡もなく長男を抱いて掃除途中のアパートに様子を見に来たので,被告は,なぜ来たのかと大声を出しながら手近のクリアケースを手で叩いた(投げつけたとまで認めるに足りる証拠はない。)。

(3) アパート転居後の平成15年□月(長男5か月)頃,原告は,パート(週1回・新体操指導)を始めた。被告は,原告が働きたいようであり,育児ストレスが溜まるよりは良いと考え,被告の母に,週に1度アパートに来て長男の監護をしてもらうよう頼むなどした。同じ頃,原告は,結婚前の勤務先から復職を打診されたが,遠いので子育てとの両立は困難と考えて,被告に相談という相談もせず断った。それを聞かされた被告は,共働きも良いと考えていたこともあり,せっかくの話なのになぜ断ってしまったのかと原告に言ったことがあった。

(4) 平成18年頃,被告は,自分の家を持ちたいと家探しを始めたが,原告は,被告にはっきりとは伝えなかったが,保育園やパートのことを考えると,転居はしたくないと思っていた。そのため,原告は,被告が家を探してくる度に難色を示し,結局,自宅(被告の現住所)の購入には同意したものの,転居準備がなかなか進まなかった。被告は,仕事が忙しく休日にしか片付けなどができないので,転居目前なのに原告があまり動かないことに苛立ち,口論となったりした。

(5) 平成18年□月,原告と被告は,現在の自宅に転居した。転居後,原告と被告間で,掃除・洗濯などをする,しない,そのやり方などにつき言い争いになることが増えた。この頃から,原告は,被告の要望や意見につき一層過敏に反応するようになり,被害的に捉えては自分のやり方があると被告に激しく抗議したりした。それに対して被告も大声で言い返す,何度か無言で片づけをやり直すなどした(原告は,被告が家事のやり方(片付けの仕方や洗濯物の干し場所など)を細かく指示し,それに添わないと一方的に怒鳴りつけてきたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。

 原告は,自分のやり方をことごとく否定されると感じて憤り,いつも自分の考えを押しつけてくると過去の被告の言動を言い募っては激しく抗議することを繰り返し,被告は,簡単なことなのに,さっさとやってしまえば問題ないのに,なぜ過ぎた事まで執拗に持ち出して,そんなに反発するのかと理解に苦しみ,両者の関係は平行線を辿った。
 なお,平成20年頃,原告は,強いめまいで救急搬送されたことがあったが,入院はせずに帰宅している(被告が入院を阻止したと認めるに足りる証拠はない。)。

(6) 原告は,やがて,被告の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり,平成23年□月頃から,神経科を受診し始めたが,被告は,原告の精神状況を深刻なものとは捉えておらず,治療などにもあまり協力的ではなかった。
 なお,原告は,同居中,被告に対して「このままだと被告と一緒に生活できなくなる。原告に対する態度を考え直してほしい。」旨を訴えて,深刻に話し合いをしたことはなかった。

(7) 平成23年□月,登校したはずの長男(当時小学3年生)が所在不明となり,原告は休みで家にいた被告に一緒に探して欲しいと頼んだ。しかし,被告もこの頃,原告との関係に悩み精神的に相当疲弊していて,長男が居なくなったと聞いて頭が真っ白になり,具体的な行動を取ることができなかった。
 原告は,被告のこの対応に失望し,被告に断ることなく,同月中に長男を連れて現住所に転居し,以後,被告とは現在まで別居している(本件別居)。

(8) 本件別居後,原告と被告は,被告の実家で被告の両親,原告の母も交えて今後の話し合いをしたが,離婚を主張する原告とやり直したいという被告との間で折り合いがつかなかった。そこで原告は,別件離婚調停を申し立てたが,やはり折り合えず,同調停は平成25年□月□□日に不成立で終了した。

(9) 原告は,本件別居後,多少精神的に落ち着いたが,被告が怖い,被告からメールが来ると辛くなると訴え,継続的にカウンセリングを受けていて,遅くとも平成25年には全般性不安障害と診断された。
 なお,原告は,医師から被告と接触しないよう指示されているというが,診断書にその旨の記載はなく,その他これを認めるに足りる証拠もない(甲11は,大半がカウンセリング時の原告の発言内容などを記載したものであって,被告との関係で相当な心理的負担を抱えていることは分かるものの,その他にも,原告の生育歴や思考パターンなどが精神状態に大きく影響していることも窺われるところである。)。

(10) 被告は,長男が生まれてから,時間があればおむつを換えたりミルクを飲ませたり,お風呂に入れたりし,休日などには遊び相手にもなって養育に関与してきた。保育園や学校の行事にも夫婦揃ってよく出席し,被告は,本件別居後も長男とは月に1~2回は面会交流をしていて,原告からみても関係は良好であるという(原告40頁)。

(11) 婚姻費用について,被告は,平成26年□月に,別件婚費分担審判で定められた一部を支払ったが,自宅のローン返済などを理由に,原告が使用している家族カード引き落とし分(月額約3万円)の負担以外,定期的な支払いはしていない。

(12) 被告は,本人尋問において,「これまで原告の精神状態を甘く見ていて理解がおよそ足らず,それを踏まえての対話や支援などができていなかったことを反省している。当時は分からなかったが,振り返れば,病気のせいでの言動だったのだなと思う。今後は,全般性不安障害そのものや原告の現状への理解を積み重ね,原告の治療を優先に,関係を修復していきたい。同居が無理ならば,原告の治療の様子を見ながら徐々に,あるいは長男と被告が同居を再開し,原告の精神状態を見ながら,時間はかかるかもしれないがやがて親子3人での同居を目指す等を考えている。」旨述べた。

(13) 原告は,本人尋問において,「被告の姿を見たり,声を聞いたりすると,息苦しさやめまいを感じ,医師からも接触は極力避けるように言われている。今後,被告と同居することは無理である。」旨述べた。

2 離婚請求について
 婚姻の本質は,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことであるところ,原告は,被告との接触のストレスから全般性不安障害となっていて,被告との同居は無理である旨述べる。しかし,原告が婚姻関係の破綻原因と主張する事実は,上記認定のとおり,その存在自体が認められないか,存在するとしても,いずれも,性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いに端を発するもので,被告のみが責を負うというものではない。そして,そのような隔たりを克服するためには,相互に相手を尊重し,異なる考え方であっても聞き,心情を汲む努力を重ね,相互理解を深めていくことが必要である。

 しかしながら,原告は,独り決めする傾向が見受けられ,被告が後から何か意見などをすると,自分の判断・行動を責められていると感情的・被害的になって受け入れず,被告に自身の精神状況について深刻に相談をすることもしないまま一方的に別居し,別居後も,頑に離婚を主張している。他方,被告も,独断的な傾向(とにかくやれば良いのだなど)があり,口論の末ではあったかもしれないが原告に大声を出すなど,原告の精神状態に配慮を欠いた相互理解の姿勢に乏しい言動があった。

 しかし,現在被告は,原告との修復を強く望み,従前の言動を真摯に反省し,全般性不安障害の理解のための努力も重ね,今後も原告の治療を優先に(夫婦カウンセリングも視野に入れている),段階を踏んだ時間をかけての関係改善を考えている。また,原告の,全般性不安障害の原因は,原告の生育歴や思考パターンによる部分も大きいものと考えられる。さらに,被告は,長男誕生時からその養育に関わり,現在も被告と長男の関係が良好に保たれているうえ,原告と被告の同居期間が約10年であるのに対して別居期間は約3年5か月と短い。

 以上を総合考慮すると,原告と被告との婚姻関係は,原告の治療を優先に進めながらではあるが,原告と被告が相互理解の努力を真摯に続け,長男も含めた家族のあり方を熟慮することにより,未だ修復の可能性がないとはいえず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとまでは認められない(ただし,被告が原告に対し,定められた婚姻費用を支払うべきことはいうまでもない。)。

3 よって,その余の点につき判断するまでもなく,主文のとおり判決する。
  東京家庭裁判所立川支部家事部
以上:6,295文字

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