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面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求棄却例1

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平成29年 1月30日(月):初稿
○「面会交流実施誠実協力義務違反理由の弁護士に対する損害賠償請求認容例1」の続きで、1審被告らの面会交流の不実施につき,1審原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったということはできないとして,1審被告らの控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消し,1審原告の請求をいずれも棄却し,1審原告の控訴を棄却した平成28年1月20日福岡高裁判決(判例時報2291号68頁)全文を2回に分けて紹介します。先ず裁判所の判断の認定事実部分までです。

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主   文
1 1審被告らの控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 1審原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,1審原告の負担とする。

事実及び理由
(以下当事者を表示する際は,原判決での表示どおりそれぞれ「原告」,「被告Y1」,「被告Y2」といい,被告両名を合わせて「被告ら」という。)

第1 控訴の趣旨
(原告)

1 原判決を次のとおり変更する。
2 被告らは,原告に対し,連帯して,200万円及びこれに対する被告Y1は平成25年12月21日から,被告Y2は同月20日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被告らの負担とする。
4 仮執行宣言

(被告ら)
主文第1,2,4項と同旨

第2 事案の概要(略称等は原判決の例による。)
1 本件は,夫である原告が,別居中の妻である被告Y1及びその代理人弁護士であった被告Y2に対し,被告Y1が監護する二男につき調停により月2回程度の面会交流が合意されたにもかかわらず,被告らが不当に面会交流を拒否し,これにより精神的苦痛を受けたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為の日の後(各訴状送達の日の翌日(被告Y1は平成25年12月21日,被告Y2は同月20日))から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,原告の請求のうち,被告らに対し慰謝料20万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却した。
 そこで,これを不服とした原告及び被告らが,上記第1記載のとおり控訴した。なお,原告は,不服の範囲を200万円及びこれに対する附帯請求に限定している。

2 前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,3において原告の当審における新たな主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 3頁19行目の「その旨の」を「面会交流を実施するように」に,23行目の「受任通知」を「受任通知書」にそれぞれ改める。
(2) 7頁9行目の「移送審判」を「移送審判書」に,17行目の「その」を「その審判書の」にそれぞれ改める。
(3) 9頁20行目の「詫間総合出張所児童館」を「託麻総合出張所児童館」に改める。

3 原告の当審における新たな主張
(1) 被告Y1は,平成24年10月29日に原告と別居するに際し,二男を違法に連れ去った。これは原告の親権を侵害するもので不法行為を構成する。
(2) 被告らは,平成26年2月22日ころ,面会交流の実施を拒絶した。これは,被告らの不法行為である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実に加え,証拠(甲92,乙7,14,原告,被告Y1,被告Y2及び各項に掲げた証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められる。
(1) 原告と被告Y1は,平成19年3月15日に婚姻した直後から,原告が被告Y1に暴力を振るうことがあり,夫婦関係が悪化して平成20年9月ないし10月ころ,被告Y1が実家に帰り,平成21年6月ころまで別居状態が続いたことがあった。その後,原告が被告Y1に暴力を振るわないことを約束して,同居を再開し,平成22年に長男,平成24年に二男が出生した。(甲92,乙7,原告本人,被告Y1本人)
(なお,上記暴力の具体的内容及び時期は,的確な客観的証拠がなく認定することができない。

 また,被告Y1は,原告から暴言を浴びせられるなど人格を否定されるような扱いを受けたと主張しこれに沿った供述をするが,これを裏付ける客観的な証拠はない。かえって,証拠(甲40,42,103,104)によれば,別居後とはいえ被告Y1も原告に対してメール等で暴言を浴びせていたことが認められ,このことに照らすと,被告Y1が原告に対し恐怖感を抱いていたとはにわかに認められない。)

(2) 被告Y1は,原告の言動に不満を募らせ,平成24年10月29日,子らを連れて別府市の実家に戻ろうとし,両親に迎えに来てもらった。原告は,同居している父親からこのことを知らされて自宅に戻り,子らを渡すことに抵抗したが,駆けつけた警察官の説得により被告Y1に二男(当時生後5か月余)を渡した。被告Y1は,二男を連れて実家に帰り,以後別居状態となった。(乙7)

(3) 被告Y1は,平成24年11月,熊本家庭裁判所に第1調停事件の申立てをした。なお,平成25年2月までの間,原告は被告Y1に対し,二男との面会交流を求めたが,同被告は応じなかった(甲1ないし3)。
 第1調停事件係属中の平成25年2月から4月にかけて,5回程度,面会交流が実施された。このうち3回は熊本で行われたが,被告Y1は,母とともに二男を連れ,休憩も含めて片道約4時間半かけて自家用車で移動した(不測の事態が発生するのに備え,高速道路は利用せず,一般道で移動した。)。(被告Y1本人)

(4) 平成25年4月15日,第1調停事件において本件調停が成立した。(甲5)

(5) 4月20日,別府市内で面会交流が実施された。面会交流が終了して長男を原告に引き渡す際,被告Y1の父が,長男に対して,「守ってやれんでごめんな」などと発言した(4月20日の発言)が,このことにつき,原告は,同月21日に被告Y1に対して,上記発言は原告にとって不愉快であるし,子にとっても片親疎外という虐待に該当する旨の抗議のメールを出した。(甲39,原告本人)

(6) 被告Y1は,5月11日,本件調停により面会交流日と定められた第2土曜日であったため,父とともに二男を連れて熊本市の原告の実家を訪れたところ,原告は被告Y1から事前に面会交流場所の連絡がなかったことから同日に被告Y1が来訪することはないものと誤解し,被告Y1に連絡しないまま長男とともに外出していたため面会交流ができなかった。(甲92,乙7,原告本人,被告Y1本人)

(7) 被告Y1は,5月13日,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,原告に対し,同月27日までに被告Y1と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
 一方,原告も,同月17日,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,同月30日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。その結果,熊本市内で面会交流が実施された。
(甲49,50,95,乙9)

(8) その後,原告と被告Y1は面会交流の日時や場所について協議を行い,6月15日,別府市内(ゆめタウン)において面会交流が実施された。
 その際,被告Y1が長男と手をつないで歩くと,原告は二男を抱いてその後ろを歩いた。(甲51ないし57,原告本人,被告Y1本人)

(9) 原告と被告Y1は,メールにより面会交流の場所等を調整し,7月6日正午から午後5時までの間,大牟田市動物園(雨天等の場合は託麻総合出張所児童館)で面会交流を実施することを合意した。
 被告Y1は,前日の5日に原告に対して送信したメールにおいて,両親を同行する旨を伝えたが,原告は,被告Y1の父は以前から暴言癖があり4月20日の発言のこともあるので同行するのであれば,同人が暴言を反省し改善することを約束する旨のビデオを添付して送信するよう要求し,「面会交流についてはその内容を検討して決定したいと思います」(甲59)と述べた。

 これに対し,被告Y1は,面会交流当日朝のメールで,上記要求は屈辱的であり,かつ,本日中に送る術がないから応じられず,同日の面会交流は原告から拒否されたと理解する旨を述べた(甲61)。これに対し,原告は,なおも面会交流の実施を要求したが,上記ビデオの送付要求を撤回することはなかった。結局,7月6日の面会交流は実施されなかった。(甲58ないし62,原告本人,被告Y1)

(10) 被告Y1は,7月16日,弁護士の被告Y2(平成24年12月に司法修習を終了して福岡県弁護士会に登録し,7月3日に別府市で開業した。)に法律相談をし,原告とどうしても離婚したい,幼児である二男を抱えての長距離の移動を伴う面会交流が二男にとって大きな負担となっているので面会の回数を減らしたい,また,原告の個性によりそのための協議が困難となっているなどと対処策を相談した。

 被告Y2は,数回にわたり被告Y1から話を聞いて,現状が二男にとって大きな負担であるとともに協議自体も困難であると考え,公平中立な第三者が関与する離婚調停の中で面会交流についての協議を行っていくという方針に決め,8月2日に,離婚調停の申立てにつき受任した。この間,原告は,被告Y1に対し,7月20日の面会交流について協議を求めたが,被告Y1は,同被告及び二男の体調不良を理由に面会交流を拒絶した。

(11) 被告Y1は,8月5日,被告Y2を代理人として,大分家庭裁判所に第2調停事件の申立てをし,その際,1歳の幼児を養育しながらアルバイト勤務をしていること等から,遠隔地の熊本までに出向くことはできないとして,自庁処理の上申をした(乙1,2)。被告Y2は,仮に熊本家庭裁判所に移送になったとしても,9月中には面会交流の協議が可能であると考え,大分家庭裁判所の裁判所書記官に対し,移送になるのであれば,早く移送の審判を出してもらいたい旨を伝えた。

 被告Y2は,同月9日,原告に対して電話で,被告Y1の体調不良のため同月10日の面会交流は実施できない旨,第2調停事件の期日において面会交流の方法等について話し合いたい旨を伝えた。

 これに対し,原告は,被告Y2に対し,被告Y1の体調が悪いのであれば場所は別府市内で二男とだけでいいから面会交流を実施したい旨答えるとともに,被告Y1に対しても同趣旨をメールで申し入れたが,面会交流は実施されなかった(甲11,12)。被告Y2は,同月12日,改めて受任通知書を送付した(甲97,乙3)。

(12) 原告は,8月8日に,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,同月25日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。これに対し,被告Y2は,本件調停で合意した以後面会交流の実施やそのための協議に問題が生じており,既に大分家庭裁判所に第2調停事件を申し立てているので,調停の場で協議したいとして,履行勧告には応じなかった。(甲10,15,乙9)

(13) 原告は,9月24日,被告Y2に対し,面会交流を実施するよう求め,連絡は書面またはメールで行うことを求めるメールを送信した(甲13)。被告Y2は,調停の場での協議を考えていたが,手続が進行しないため,同月30日,原告に対し,原告と被告Y1が直接顔を合わせないよう別府市内の被告Y2の事務所で子の引渡しをして面会交流をすることを提案するメールを返信した(甲14)。

 これに対し,原告は,同日,上記提案に対しては直接答えず,7月6日以降面会交流がされていないことにつき被告Y2が関与したのかを質問するメールを送信したところ,被告Y2は,原告から上記提案に対する回答がなかったことから,面会交流の件については改めて書面で提案するというメールを返信した(甲15,16)。原告は,同日,被告Y2に対し,面会交流の件で関与についての否定はなく,回答を拒否したものと受け取ったとして,上記提案においてどのように子の福祉を考慮したものか説明してほしい等としたメールを送信した(甲17)。被告Y2は,以後メールでのやり取りを打ち切り,専ら書面郵送の方法で原告と連絡するようになった。

(14) 被告Y2は,10月1日,書面により,原告に対し,調停申立てから約2か月経過しているため,弁護士立会いの下で別府市内(被告Y2の事務所)において面会交流をすることを提案した(甲18)。
 これに対し,原告は,同月3日,被告Y2に対し,面会交流の拒否が長期にわたっている現状では郵送という時間のかかる伝達手段は不誠実である,被告Y2が本件調停の条項に違反する教唆を被告Y1にした可能性があることが分かったので,その責任については検討している,被告Y1が熊本に行くことが困難な理由を説明してほしい,面会交流の内容には問題がなく,問題があるとすれば被告Y1の精神状態である等としたメールを送信した(甲19)。

 被告Y2は,同月4日,書面郵送の方法を用いる理由は「意見の対立がみられるため,争点を明確化し,適格に解決すべく」(原文ママ)というものであること,場所を被告Y2の事務所とする理由は被告Y1の両親が多忙であるためであるなどと返答し,面会交流に関する協議は,第2調停事件において家庭裁判所調査官関与の上で試行的面会交流をするのが適切であると回答した(甲20)。

 その後,原告と被告Y2との間で,10月21日までの間,被告Y2がメールを利用しない理由や面会交流の場所をどうするかなどにつき,原告からはメールで,被告Y2からは書面郵送の方法でやり取りがされ,途中,原告から中間地点である大牟田市動物園での面会交流の提案があったが,被告Y1の父の同行の可否を巡って合意には至らなかった(甲21~25)。

(15) この間,大分家庭裁判所は,10月1日,第2調停事件を熊本家庭裁判所に移送する旨の審判をした。ところが,被告Y2が申立書に原告の住所を誤って記載していたため(正確な住所は熊本市東区(以下略)であるが,熊本市東区(以下略)と記載されていた。),原告に審判書を送達するのに時間を要した。被告Y2は,本件調停調書の記載等から原告の正確な住所を容易に認識することができる状態にあったが,それまで普通郵便では誤記した住所でも届いていたため(郵便局の取扱いでは,普通郵便については住所に多少の誤記があっても配達されることがあるが,書留郵便等においては正確な住所を記載しない限り配達しないこととされている。),原告の住所を誤解していた。(甲5,乙1,4~6)

(16) 被告Y2は,10月22日,大分家庭裁判所から原告に移送の審判書が送達できないとの連絡を受けたので,原告が受領を拒否しているのではないかと考え,一度は受領を求める書留郵便(乙5)を送ったがこれも原告に届かなかったため,その後は原告に対して書面郵送の方法も含め連絡をしなかった。そこで,原告は,同月31日,熊本家庭裁判所に再度履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,11月15日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。被告Y2は,同裁判所に原告に送達できない現状を話し,同裁判所調査官から原告の住所の開示を受けた。(甲26,乙9)

(17) 被告Y2は,11月12日,大分家庭裁判所に住所訂正の上申書を提出し,同月17日ころ,原告に対し移送の審判書が送達された。被告Y2は,上記調査官からの連絡に対し,1,2週間中に原告に手紙を送る意向であることを話した。(甲27,乙6,9)

(18) 原告は,12月10日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。同月17日,熊本家庭裁判所から被告Y2に対し,第2調停事件の期日の調整の連絡があった。被告Y2は,同日,原告に対し,漸く移送が行われたので,第1回調停期日への出席を求めるとともに,大牟田市動物園での面会交流の提案(被告Y1の両親も同行するが,子の受け渡しの場所で父は席をはずす内容)をした(乙10の4)。

 これに対し,原告は,同月19日,二男の体調を考え,熊本市子ども文化会館の室内での面会を希望するとともに,被告Y1の父の同行を拒否するメールを送信した(乙10の5)。同日被告Y2に,翌20日被告Y1にそれぞれ訴状が送達された(裁判所に顕著な事実)。被告Y2は,本件訴えの被告となっていることにショックを受けるとともに,共同被告の立場を考え,いったん本件事件の関与から離れることにし,同じ事務所のA弁護士が本件事件に関与するようになった(乙10の7)。

(19) 平成26年1月23日の第2調停事件の第1回調停期日において,原告と被告Y2との間で面会交流について協議がされ,被告Y1が父親の同行の点を譲歩したこともあり,協議が成立し,同年2月1日に熊本市内で面会交流が実施された(甲82,83)。

(20) 原告は,同年2月17日ころ,被告Y2に対し,候補日を同月22日か23日として,次回の面会交流についての申し出をしたが,いずれの日も被告Y1の都合がつかず,面会交流は行われなかった(甲84ないし87,乙8,14)。」

以上:7,128文字

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