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不貞行為第三者の職場への不貞行為報告に不法行為責任を認めた判例紹介1

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平成28年 7月29日(金):初稿
○自己の配偶者と不貞行為に及んだ不貞行為第三者を憎む余り、その第三者の職場や家族に対し、その不貞行為の事実を電話や手紙等で報告する例が良くあります。このような不貞行為内容を不貞行為第三者以外の者に報告した場合の責任について判断した判例を探していますが、元受刑者が、その妻と不貞行為をした刑務官の職場に不貞の事実を触れ回ったことについてプライバシー侵害の不法行為の成立を認めた平成20年6月25日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)の裁判所判断部分を紹介します。

○この事案は、刑務官が元受刑者の妻と肉体関係を結んだことにより、元受刑者の夫婦関係を破綻させた事実を認定して、元受刑者からの2000万円の損害賠償請求に対し、100万円の支払を刑務官に命じています。

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5 争点(4)(原告の被告Y1に対する不法行為の成否)について
(1) 被告Y1は,原告が,同被告の携帯電話に連日のように電話をかけ,脅迫的な言辞を用いて金員を要求したと主張し,被告Y1は,この主張に沿う供述をする。そして,同供述,丙第4号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同被告に対し,Aとの不貞行為に関して,その携帯電話に何度か電話をかけたことは認められるが,その際,原告が,不法行為に至る程度の言動で被告Y1を脅迫したことを認めるに足りる証拠はなく,上記主張を認めることはできない。

(2) 次に,被告Y1は,原告が,被告Y1とAの不貞関係に関しB刑務所に電話したことが名誉毀損ないしプライバシー侵害に当たると主張する。
ア 証拠(丙1の1・2,4)によれば,原告は,被告Y1とAとの交際が終わった後である平成18年2月2日ころから同年4月3日ころにかけて,B刑務所に少なくとも14回電話をかけ,同刑務所a部d課長補佐等に対し,原告がB刑務所の元受刑者であることを名乗った上で,自分の妻であるAが,同刑務所に勤務している被告Y1と肉体関係を持ったこと,その態様は,Aが自分との面会に来た帰りに,官舎に連れ込んで,無理矢理犯したというものであること,被告Y1は,Aが受刑者の妻であることを知っていたようであること,被告Y1は,飲酒運転をしていること,被告Y1は,忘年会のときにAに電話をかけ,補佐や同僚とも話をさせていること,被告Y1に謝罪をさせてほしいこと,弁護士と訴訟をするかどうか協議するが,被告Y1が謝罪し,誠意を見せてきたら,訴訟はしないこと,被告Y1は,Aと性行為に及んでいる写真を持っているので,それを回収して欲しいこと,被告Y1の弁護士との話合いの中で,同被告が誠意を見せなければ,刑務所に対し,写真を回収するよう正式に依頼することなどを話したこと,被告Y1は,同年2月9日,○○弁護士を通じて,原告に対し,同被告が勤務するB刑務所に連絡することを止めるよう求めると共に話し合いの解決を希望していることを連絡したが,原告は,それ以後も上記のとおり,B刑務所に電話をすることをやめなかったことが認められる。

イ 原告がB刑務所に電話し,上記のような話をしたとしても,その会話自体に公然性はなく,かつ,上司に報告がされることは別段,不特定多数人に伝播することも考えにくいことからすれば,これによって,被告Y1の社会的評価が直ちに低下するとはいえない。しかし,原告が話した内容には,被告Y1とAの不貞関係など,同被告の私生活上の事実,しかも,第三者に知られたくない事実が含まれており,それが職場の者に話された場合,被告Y1が精神的苦痛を受けることは,明らかである。

そして,上記証拠(丙4)によれば,原告の通話内容には,刑務官の不祥事を勤務先の刑務所に通告し,その姿勢を問うという部分も含まれてはいるが,上記証拠から認められる通話内容やその時期及び回数を併せて考えれば,少なくとも,その主要な目的の1つは,被告Y1を困惑させ,そのころ進められていた原告と被告Y1との間の示談交渉を有利に進めようとする点にあったものと推認できるのであり,原告の上記行為をもって,社会的相当性の範囲内にある行為と評価することは困難である。原告の上記行為は,被告Y1に対する違法なプライバシー侵害に当たる解するのが相当である。

(3) 次に,被告Y1は,原告が,被告Y1とAの不貞関係について本件出版社に情報を提供して,原告の名誉ないしプライバシー権を侵害したとも主張する。
 甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば,本件記事には,被告Y1とAとの不貞関係が,詳細に記述されていることが認められるが,他方で,同記事は,仮名処理がされており,被告Y1を特定し得る情報は,同被告が仮名処理された「甲野太郎」が,B刑務所に勤務する○歳の刑務官で,結婚し,娘がいて,官舎に居住していることに限られること,B刑務所には相当多数の刑務官が勤務していることが認められ,これらの事実からすれば,一般読者にとり,本件記事における「甲野太郎」が被告Y1であると同定することが可能であるとはいえない。

 もっとも,原告からの電話に対応した前記課長補佐等,B刑務所の一部の関係者にとっては,本件記事における「甲野太郎」を被告Y1と同定することは可能である。そして,甲第2号証によれば,本件記事には,被告Y1とAとの不貞関係が,原告及びAの心情も含めて記述されており,原告が,本件出版社の記者に対し,何らかの形で情報提供したものであることが推認できる。しかし,雑誌出版社は,一般人からの情報提供に受けた場合,裏付け取材を行い,掲載の当否及び掲載内容,仮名処理の有無,程度などを,その出版社の責任において,独自に判断するものであるから,仮にその雑誌記事によって,第三者のプライバシーを侵害する結果となったとしても,情報提供者が,これらの点について出版社の判断に影響を及ぼす立場にあったような特段の事情がない限り,その記事内容につき責任を負わないというべきである。そして,本件において,このような特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

 したがって,本件記事に,被告Y1のプライバシー侵害の要素があることは否定できないが,これについて,原告の不法行為責任を認めることはできない。

6 争点(5)(被告Y1の損害額)について
 証拠(被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,原告との間で,弁護士を通じた示談交渉をしていた時期の前後に,原告が,同被告の職場に多数回電話をかけ,Aとの関係など,同被告のプライバシーに属する事柄を,職場の職員に話したことにより,困惑し,一定の精神的苦痛を受けたことが認められる。しかし,他方で,被告Y1が受刑者の妻であるAと肉体関係を持ち,これを継続したことは,刑務官として相応しくない行為であるから(乙12,被告Y1本人17頁以下),これが原告の上記通告により,被告Y1の上司の知るところになり,同被告が,一定の業務から外されたり,昇級が見送られたりしたことがあったとしても,それは,同被告自らの不相当な行動の結果であり,これによる損害の賠償を原告に求めるのは筋違いである。被告Y1が原告に対して求め得る損害賠償は,上記精神的苦痛についての限度であり,これを金銭に見積ると10万円が相当であり,原告は,これに弁護士費用相当額1万円を付加した11万円に限り,これを支払う義務があるというべきである。

7 結論
 以上によれば,原告の甲事件請求は理由がないからこれを棄却し,乙事件本訴請求は,被告Y1に対し,慰謝料100万円及びこれに対する平成17年5月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,被告Y1の乙事件反訴請求は,慰謝料と弁護士費用の合計11万円及びこれに対する平成19年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 廣谷章雄 裁判官 布施雄士 裁判官 川山泰弘)

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